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29.戸惑い。
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林間学校に無事辿り着いた相澤和真達は施設の説明を受けた後、各自割り当てられた部屋へ散って行った。和真の部屋は四人部屋だった。
「二段ベッドだ! 俺、上な!」
同じ班の田崎が嬉しそうにベッドの階段を上りはじめた。
「じゃあ、俺は、下でいい。疲れた~」
もう一人同じ班の中田はどうでもいいように田崎の下のベッドにゴロリと寝転がる。班長達は先生に呼ばれていたので、福井奏はまだ部屋に来ていない。和真はもう一つのベッドの下の段に腰を下ろした。
「携帯没収されたのキツイな。この林間学校が終わるまで使えないなんてありえない」
中田が右手を見つめながら呟いている。どうやら依存気味らしい。今までの和真なら何も感じなかっただろう。
だが、三峰汐音からの返事を確認できないまま携帯を回収された和真も同じように落ち着かない気持ちになっていた。汐音には携帯を回収される事を伝えていない。もし汐音が返信したとしても放置になってしまう。
(あいつをさらに不安にさせてないかな?)
そんなことをぼんやり考えていると、奏が部屋に姿を現した。
「福井、ご苦労さ~ん」
「やっと解放されたのか。初っ端から大変だな」
「奏。お疲れさま」
自分達の班長へ各々が労いの言葉を送る。奏は見慣れた微笑を浮かべると二段ベッドへ視線を向けた。
「ふ~ん、二段ベッドなんだ」
「奏、上で良かったか?」
荷物を置く奏に和真が声を掛けながら肩に触れる。その瞬間、まるで電流が全身にでも走ったかのようにビクッと体を震わせ、奏が物凄い勢いで振り返った。
「え……?」
「……あ、ごめん。びっくりして──」
驚く和真から視線をあたふたと泳がせた奏は、明らかに距離を取った。いつもと違う奏の様子に和真は面食らう。今までなら、鬱陶しいほどかまってくるのに、どこか和真を避けているように感じた。
「今から昼食だ。とりあえず皆、俺に付いて来て」
「へ~い」
奏の指示に従い、中田達は腹減ったと部屋から出て行く。その後に続きながら和真はもやもやした気持ちのまま部屋を後にした。先頭を行く奏の長身の背中を見つめながら和真は思考を巡らせる。
(おれは奏に何か嫌な思いをさせてしまったのだろうか?)
思い返してみても該当するような出来事が思い浮かばない。バスの中では和真の肩に頭を乗せて熟睡していたほどだ。
(……あの時かな? 唇が触れた時……、かなり強引に顔面を押してしまったからな。何か勘違いさせてしまったのかもしれない)
食堂は思っていた以上に広かった。学校でない解放感からか、かなり賑やかな状態になっていた。席は各班に分かれていて、和真は敢えて奏が座るのを見届けてから、あえて奏の隣の席に腰を下ろす。その瞬間、テーブルの上に置いていた奏の手が僅かにピクリと反応するのを見て、和真は確信する。
(やっぱり。……気のせいじゃない。奏はおれに対して、かなり意識している。……いや、警戒している?)
唯一の友達だと思っている奏によそよそしくされ、和真はひどく落ち着かない気分になっていた。
(どうやらおれは奏の過剰なスキンシップをウザいと思っていたはずなのに、いつのまにかそれがないと逆に寂しいと感じるようになってしまったんだな……)
今まで一人でいることは平気だった。
だが、今の和真ははっきりと寂しいと自覚している。自分の心の変化に戸惑い、途方に暮れる和真だった。
「二段ベッドだ! 俺、上な!」
同じ班の田崎が嬉しそうにベッドの階段を上りはじめた。
「じゃあ、俺は、下でいい。疲れた~」
もう一人同じ班の中田はどうでもいいように田崎の下のベッドにゴロリと寝転がる。班長達は先生に呼ばれていたので、福井奏はまだ部屋に来ていない。和真はもう一つのベッドの下の段に腰を下ろした。
「携帯没収されたのキツイな。この林間学校が終わるまで使えないなんてありえない」
中田が右手を見つめながら呟いている。どうやら依存気味らしい。今までの和真なら何も感じなかっただろう。
だが、三峰汐音からの返事を確認できないまま携帯を回収された和真も同じように落ち着かない気持ちになっていた。汐音には携帯を回収される事を伝えていない。もし汐音が返信したとしても放置になってしまう。
(あいつをさらに不安にさせてないかな?)
そんなことをぼんやり考えていると、奏が部屋に姿を現した。
「福井、ご苦労さ~ん」
「やっと解放されたのか。初っ端から大変だな」
「奏。お疲れさま」
自分達の班長へ各々が労いの言葉を送る。奏は見慣れた微笑を浮かべると二段ベッドへ視線を向けた。
「ふ~ん、二段ベッドなんだ」
「奏、上で良かったか?」
荷物を置く奏に和真が声を掛けながら肩に触れる。その瞬間、まるで電流が全身にでも走ったかのようにビクッと体を震わせ、奏が物凄い勢いで振り返った。
「え……?」
「……あ、ごめん。びっくりして──」
驚く和真から視線をあたふたと泳がせた奏は、明らかに距離を取った。いつもと違う奏の様子に和真は面食らう。今までなら、鬱陶しいほどかまってくるのに、どこか和真を避けているように感じた。
「今から昼食だ。とりあえず皆、俺に付いて来て」
「へ~い」
奏の指示に従い、中田達は腹減ったと部屋から出て行く。その後に続きながら和真はもやもやした気持ちのまま部屋を後にした。先頭を行く奏の長身の背中を見つめながら和真は思考を巡らせる。
(おれは奏に何か嫌な思いをさせてしまったのだろうか?)
思い返してみても該当するような出来事が思い浮かばない。バスの中では和真の肩に頭を乗せて熟睡していたほどだ。
(……あの時かな? 唇が触れた時……、かなり強引に顔面を押してしまったからな。何か勘違いさせてしまったのかもしれない)
食堂は思っていた以上に広かった。学校でない解放感からか、かなり賑やかな状態になっていた。席は各班に分かれていて、和真は敢えて奏が座るのを見届けてから、あえて奏の隣の席に腰を下ろす。その瞬間、テーブルの上に置いていた奏の手が僅かにピクリと反応するのを見て、和真は確信する。
(やっぱり。……気のせいじゃない。奏はおれに対して、かなり意識している。……いや、警戒している?)
唯一の友達だと思っている奏によそよそしくされ、和真はひどく落ち着かない気分になっていた。
(どうやらおれは奏の過剰なスキンシップをウザいと思っていたはずなのに、いつのまにかそれがないと逆に寂しいと感じるようになってしまったんだな……)
今まで一人でいることは平気だった。
だが、今の和真ははっきりと寂しいと自覚している。自分の心の変化に戸惑い、途方に暮れる和真だった。
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