生まれる前から好きでした。

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27.寂しい。

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 相澤和真はバスの窓から見える景色を眺めていた。隣では、親友の福井奏が和真の肩に寄りかかって眠っている。

「わあ。福井君が寝てる~」
「珍しいね。寝顔が見れるって、なかなかないもんね」
「いつもかっこいいけど、寝てる姿は可愛いね~」

 声の方へ顔を向ける。前の席に座っている前田さんと橋本さんがにこにこしながらこちらを覗いていた。

「ねえ、相澤君、席変わってくれない?」

 橋本さんが茶目っ気のある笑みを浮かべて両手を合わせる。

「ははは。ごめん。こいつ相当疲れてるみたいなんだ。そっと眠らせてやってよ」
「だよね~」

 そう言うと、二人は見納めるように福井の寝顔をじっと見てから座り直した。和真は熟睡しているらしい福井の姿に視線を向ける。
 日焼けした精悍な顔、鍛えられた体躯、人望があって、いつも自信に満ちた奏の姿は、和真にとっては憧れるものがあった。その奏が安心した表情で眠る顔はどこか子供っぽく見える。

(本当だ。可愛い顔して寝てる)

 目線を上げバスの中を見回せば、奏と同じサッカー部の連中は全員爆睡していた。今日からしばらくの間練習が出来ないからと、昨日はかなりハードな練習をしたらしい。
 和真は再び車窓を流れる景色に視線を戻した。若葉の緑が太陽の光を受けキラキラと輝いている。
 だが、今の和真には景色を楽しむ事は出来なかった。すぐに頭の中は三峰汐音の事でいっぱいになる。奏によって汐音から引き離された和真はそのまま引き摺られるように集合場所へと連行された。

(あいつ、大丈夫か? ……いや、きっと大丈夫じゃない……よな)

 一人ポツンと取り残されるように立っていた汐音の姿が今も目に焼き付いている。

(かなり言動もおかしくなってたからな。……遠くに離れている今のおれでも、何かあいつにしてやれる事があればいいんだが──)

 ふと思いつき、急いでポケットへ手を突っ込む。取り出したものは、コミュニケーションツールとしてはあまり使用していない携帯だ。
 先日、和真は汐音とアドレスを交換している。
 
(合宿が始まったら携帯は回収されてしまう。でも、今なら……)

『大丈夫か?』

 送信しかけて慌てて消す。

(大丈夫じゃない奴に『大丈夫か?』なんて……)

 ふと脳裏に満面の笑みを浮かべた汐音の顔が浮かんできた。

『おまえとしばらく会えなくて寂しいよ』

 思ったまま文字を打ち込む。

(寂しいって、何だ?!)

 携帯を握り締めて見悶える。

「!」

 突然、和真の胴が強い腕に拘束された。

「どうかしたのか?」

 少し掠れた声が和真の耳をくすぐる。
 福井奏が眠そうな目を擦りながら和真の顔を覗き込んできた。

「あ、ごめん! 起こしちゃったな。まだ着いてないからもう少し寝ていろよ」
「サンキュ、そうする」

 奏は素直に応じると、再び和真の肩に頭を寄せて目を閉じた。やはりかなり疲れているのだろう。すぐに寝いいってしまった。
 和真は奏の寝顔をしばらくの間眺めていたが、やおら携帯へ目を戻し唖然となった。

(……あれ? 送信しちゃった……?)

 大きく息を吐き出し、顔を天井へ向け目を閉じた。

(送信してしまったものは仕方がない。……汐音はあの文を読んでどう思うかな? あいつはいつも本心をぶつけてくるんだ。おれも素直に自分の気持ちを見せたっていいよな)

 汐音が現れるまで、和真の事をこれほど渇望してくれる者などいなかった。もちろん今も正直に言えば戸惑いはある。
 だが、ずっと心のどこかで自分の存在価値の無さに怯えていた。

(おれは孤独だったんだな)

 だからこそ、和真の存在を全身全霊で肯定してくれる汐音の側は、いつのまにか和真にとって心から落ち着ける場所になっていた。

(汐音は笑うかな? 今はあいつがいないと心が落ち着かないって言ったら……)

 まだ合宿は始まってもいない。なのに、もう和真は汐音に会える日を心待ちにしていた。
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