26 / 45
26.火花
しおりを挟む
頭上には、青い空が広がっている。爽やかで気持ちがいい朝だ。と、恐らく大勢の人達が感じているだろう。そんな朝だ。
だが確実に一人、全く爽やかとは縁遠い男がいた。
その男とは、三峰汐音だ。
ここ数日浮かない顔をしていたが、今日は特に酷い。まるでこの世の終わりを言い渡されたような表情を浮かべている。理由は分かっていた。
それは、今日から和真が三泊四日の林間学校に行くからだ。
「何て顔してるんだよ」
和真は隣を歩く汐音に声を掛けた。汐音は和真と一緒に登校するため、いつもより早く家を出る和真にわざわざ合わせて迎えに来ていた。
「……6日です。6日も会えないんですよ! 何の拷問ですか?」
苛立ちを滲ませた口調で汐音が心の中を吐き出す。
「辛すぎます……」
最後は萎れた花のように項垂れてしまった。
「おいおい、6日って何? 3泊だぞ?」
立ち止まってしまった汐音に、やや慌てながら和真は声をかける。
「研修は3泊かもしれませんが、火曜日から日曜日までまともに会えないんですよ? 私は6日間もどうすればいいのですか?!」
「大袈裟だな」
呆れたように言う和真を、汐音は恨めしそうにみつめてくる。
「和真さんは林間学校に行きたかったのですか?」
「……あのな、行きたいわけないだろう? 出来る事なら、いつも通り授業を受けて、昼は汐音が作ってくれるおにぎりを食べながらのんびりしていたいんだよ!」
本心なので感情を込めて言えば、汐音の顔がパッと輝く。
「本当ですか?!」
「もちろん。嘘つく理由がない」
「では! 林間学校では絶対に隙を見せないでくださいね!」
「隙って何だよ」
「今のような可愛い姿を見せないようにしてください! という意味です」
「……」
冗談を言っているのかと汐音の顔をまじまじと見つめてみたが、目が真剣だった。和真は僅かにムッとした表情で口を開いた。
「……可愛い姿って何だよ。一度眼医者に行ってこい」
「はぁ~、本当に自覚が無いのですね。一層恨めしいですよ」
いつもなら和真が嫌がればすぐに謝罪を口にするのに、今日の汐音は悩ましげに溜息を一つ吐き、額に指先を当て軽く頭を振っている。
「ついでに頭の中も見てもらえ」
理解不能な言動にムッとした和真は、汐音を放置したまま校門の中へと入って行く。
「あ! 待ってください!! 和真さん!!!」
慌てて汐音が駆け寄って来る。
「おまえはもう教室へ行け!」
振り向きざま指先を校舎へ向け、和真は汐音に命じる。
「そうそう、一年生は大人しく教室でお勉強してなさ~い」
突然、背後から覆いかぶされた。そのまま逞しい腕に拘束される。和真は振り返った。背後にいたのは、不敵な笑みを浮かべた福井奏だった。
「今日からずっと一緒だな、和真」
優越感に満ちた顔で、奏は汐音を見据える。汐音の纏う空気か一気に冷えていく。和真を挟み、汐音と奏の視線が激しく火花を散らした。
だが確実に一人、全く爽やかとは縁遠い男がいた。
その男とは、三峰汐音だ。
ここ数日浮かない顔をしていたが、今日は特に酷い。まるでこの世の終わりを言い渡されたような表情を浮かべている。理由は分かっていた。
それは、今日から和真が三泊四日の林間学校に行くからだ。
「何て顔してるんだよ」
和真は隣を歩く汐音に声を掛けた。汐音は和真と一緒に登校するため、いつもより早く家を出る和真にわざわざ合わせて迎えに来ていた。
「……6日です。6日も会えないんですよ! 何の拷問ですか?」
苛立ちを滲ませた口調で汐音が心の中を吐き出す。
「辛すぎます……」
最後は萎れた花のように項垂れてしまった。
「おいおい、6日って何? 3泊だぞ?」
立ち止まってしまった汐音に、やや慌てながら和真は声をかける。
「研修は3泊かもしれませんが、火曜日から日曜日までまともに会えないんですよ? 私は6日間もどうすればいいのですか?!」
「大袈裟だな」
呆れたように言う和真を、汐音は恨めしそうにみつめてくる。
「和真さんは林間学校に行きたかったのですか?」
「……あのな、行きたいわけないだろう? 出来る事なら、いつも通り授業を受けて、昼は汐音が作ってくれるおにぎりを食べながらのんびりしていたいんだよ!」
本心なので感情を込めて言えば、汐音の顔がパッと輝く。
「本当ですか?!」
「もちろん。嘘つく理由がない」
「では! 林間学校では絶対に隙を見せないでくださいね!」
「隙って何だよ」
「今のような可愛い姿を見せないようにしてください! という意味です」
「……」
冗談を言っているのかと汐音の顔をまじまじと見つめてみたが、目が真剣だった。和真は僅かにムッとした表情で口を開いた。
「……可愛い姿って何だよ。一度眼医者に行ってこい」
「はぁ~、本当に自覚が無いのですね。一層恨めしいですよ」
いつもなら和真が嫌がればすぐに謝罪を口にするのに、今日の汐音は悩ましげに溜息を一つ吐き、額に指先を当て軽く頭を振っている。
「ついでに頭の中も見てもらえ」
理解不能な言動にムッとした和真は、汐音を放置したまま校門の中へと入って行く。
「あ! 待ってください!! 和真さん!!!」
慌てて汐音が駆け寄って来る。
「おまえはもう教室へ行け!」
振り向きざま指先を校舎へ向け、和真は汐音に命じる。
「そうそう、一年生は大人しく教室でお勉強してなさ~い」
突然、背後から覆いかぶされた。そのまま逞しい腕に拘束される。和真は振り返った。背後にいたのは、不敵な笑みを浮かべた福井奏だった。
「今日からずっと一緒だな、和真」
優越感に満ちた顔で、奏は汐音を見据える。汐音の纏う空気か一気に冷えていく。和真を挟み、汐音と奏の視線が激しく火花を散らした。
10
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》
市川パナ
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。
男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。
(旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
うまく笑えない君へと捧ぐ
西友
BL
本編+おまけ話、完結です。
ありがとうございました!
中学二年の夏、彰太(しょうた)は恋愛を諦めた。でも、一人でも恋は出来るから。そんな想いを秘めたまま、彰太は一翔(かずと)に片想いをする。やがて、ハグから始まった二人の恋愛は、三年で幕を閉じることになる。
一翔の左手の薬指には、微かに光る指輪がある。綺麗な奥さんと、一歳になる娘がいるという一翔。あの三年間は、幻だった。一翔はそんな風に思っているかもしれない。
──でも。おれにとっては、確かに現実だったよ。
もう二度と交差することのない想いを秘め、彰太は遠い場所で笑う一翔に背を向けた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる