生まれる前から好きでした。

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24. 可愛い。

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 いつも決まった時間に相澤和真は学校に向かう。

「おはようございます! 和真さん!」

 マンションのエントランスを出ると、三峰汐音が満面の笑みを浮かべて飛んで来た。
 汐音は和真の家に来た次の日から、学校がある日は毎朝和真の家にまで迎えに来るようになっていた。自転車で来る汐音の為に、和真は自分のマンションの駐輪場に汐音の場所を借りている。汐音はそこに自転車を置き、一緒に歩いて登下校していた。

「……おはよう」

 挨拶に応じる和真の隣に汐音は自然に並び立つ。ガン見してくるのは変わらないが、纏う雰囲気が変わった気がする。以前は寂寥感せきりょうかんを漂わせていたのが、今は感じられなくなっている。

「今日のお昼はのり爆弾です」
「は? 爆弾?! 物騒だな……」
「爆弾ではないです。のり爆弾です」
「何だよ、それ?」

 僅かに怯える和真を汐音はまるで包み込むように見つめてくる。

「今は秘密です。お昼まで楽しみにしていてください」

 汐音はそう言うと、茶目っ気を含んだウインクを飛ばしてきた。楽しそうに話す汐音の姿を眩しそうに和真は眺める。
 以前に和真が言った事を律儀に守って、汐音は昼休み以外、自分の教室で過ごしている。時々、数人のクラスメイト達に囲まれて廊下を歩いている姿を見る事があった。笑みを浮かべているが、和真の隣で笑っている姿とはどこか違って見えた。

(汐音がしたいようにする方がいいのかもな……)

 本当は、和真にとって良いと思う事でも、汐音にはそうではない事もあるはずだ。

「汐音、今週の日曜日は空いてる?」
「空いています。空いていなくても空けます」
「……まず自分を大切にしろ」
「?」

 不思議そうな表情を浮かべる汐音に、内心ため息をつく。

(こいつはいつも俺の事が一番なんだよな。そんな事、おれは望んでいないのに……)

 和真の事を大切にしてくれる汐音の言動を正直に言えば嬉しいと思っている。
 だが、だからといって汐音が自分自身を蔑ろにすることは望んでいない。

「用事があるなら、そちらを優先してくれ」
「大丈夫です。用事はありません。空いています」
「そうなのか? じゃあ、買いたい物があって、一緒に来てほしいんだけど」
「行きます」

 まだ全部話していないのに即答だ。

「何を買われるか、聞いてもいいですか?」
「……パーティーに着て行くスーツを作りに行く」
「パーティー? 先日話されていた祝賀パーティーですか?」
「ああ。……行きたくはないんだけどな」

 憂鬱そうに答えれば、汐音が真剣な表情になった。

「あの日、和真さんの母君が私を連れて行っても良い、とおっしゃっておられましたが、連れて行っていただけるのでしょうか?」

 和真は弾かれたように汐音の両肩を掴んだ。

「一緒に行ってくれるのか?」
「お許しいただけるのなら」
「許す! というか、一緒に来てくれると嬉しい!」

 食い気味に言えば、汐音は珍しく目を大きく見開いて驚いている。すぐに、口元を手で隠し、和真から顔を逸らせた。

「汐音?」

 急に不安になった和真が汐音の顔を覗き込もうとすると、汐音が両手で和真の動きを止める。

「今、私の顔を見ないでください。……きっと赤くなっていると思うので……」
「え? 何で?」
「あの、その、……和真さんが可愛いなと思って──」
「え? 可愛い……い?」

 一瞬何を言われたのか分からなかった。
 だが、理解した途端、和真の顔も赤くなる。

「……可愛いって、何だよ。かっこいいと言えよ」
「はい」

 火照った顔を優しく撫でていく風を感じながら和真は汐音と肩を並べて学校に向かった。

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