生まれる前から好きでした。

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14.隠し事。

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 相澤和真は三峰汐音に手を拘束されたまま屋上の扉の前まで来た。この空間は、校舎のどの場所とも異なる匂いがしている。

「……汐音、手を放してくれ。痛い」
「! すみません!」

 汐音は慌てて手を離した。掴まれていた場所が赤くなっている。それに気づいた汐音が僅かに顔色を無くしていた。和真は手首を摩りながら汐音の顔を覗き込む。

(本当に、こいつはおれの事になると冷静じゃなくなるんだよな)
 
「……言いたいことがあるんだろ? 何? 言っていいよ。ちゃんと聞くからさ」

 汐音が拳をぎゅっと強く握締めた事に気付いた。

「……あの人と仲良くしないでください」
「え? あの人? 誰の事だ?」
「私からあなたを奪う……」
「……奪う? さっきの、奏のことか?」
「あの人だけはダメです!」
「汐音……?」

 いつもと違う汐音の様子に和真は困惑する。

「お願いです! 和真さん!」

 感情を溢れ出したまま汐音が和真の両肩を掴んできた。指が肩に食い込み痛みが走る。

……! 汐音!」

 和真は汐音の頬を両手で挟んだ。勢いをつけ過ぎたせいでパチンという音か響く。その音で正気に戻ったのか、汐音がはっとしたように目を見開いた。その澄んだ瞳は怯えたように揺れる。

「何が、ダメなんだ? ちゃんと理由を言ってくれ。そうでないと分からないだろ? あいつはおれの大切な友達なんだ」
「友達……? 大切……」 

  譫言うわごとのように汐音は呟き、和真の肩からゆっくりと手を離した。そのまま俯く。
 しばらくの間、汐音は身動ぎだにしなかった。何かを思案しているように見える。

「……仲が良く見えたので、単なる嫉妬です。すみませんでした。気にしないでください」

 汐音は突然、謝罪を口にした。先ほどと違い、あまり感情が感じられなかった。どこか顔色も悪く見える。気にしないで下さいと言われても、気にならないわけがない。

「あっ! 俺、おにぎりを作ってきたんです! 味見をしてください!」

 だが、汐音はまるで話は終わったとばかりに、そそくさと左手に持っていた袋の中を漁り始めた。本当はもっと何か重要な事があるはずなのに、隠したように和真には感じられた。
 しかし、今追及したところで、話してはくれない事も明白だった。汐音は言わないと決めたら、拷問でも口を割らないだろう。

(嫉妬か……)

 和真には単なる嫉妬でもないような気がしていた。
 先ほどの冷静さが欠けた姿が嘘だったかのように、嬉しそうにおにぎりの種類を説明する汐音の姿を眺める。

(何を隠したんだ?)

 一年ほど前に出会い、再び和真の前に汐音が現れてから、まだ2日しかたっていなかった。

(たった2日だ)

 だが、すでに和真の学校生活は汐音が現れてから、何も起きない日常がまるで夢だったようにさえ感じられた。

(どうなるんだ? 俺の学校生活……)

 和真は強引に持たされたおにぎりを見つめながら、心の中で呟く。

「和真さん、食べないんですか?」

 れたのか、汐音が訊いてきた。和真は視線を上げ、固まる。整った顔が鼻が触れ合うほどすぐ近くにあったからだ。さらに汐音はおにぎりを持つ和真の手を両手で包み込んできた。

「私が食べさせてあげますね」

 汐音に耳元で囁かれ、和真は顔から火が出るのではないかと思うほど赤面したのだった。
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