生まれる前から好きでした。

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7.好き。

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 屋上に向かう階段の踊り場で、相澤和真と三峰汐音はまるで時が止まったように見つめ合っていた。和真の腰に回されていた腕に力が籠る。
 
 キーン コーン カーン コーン 

 休み時間の終わりを告げる鐘が鳴り響く。
 はっとした和真は動く方の手で汐音の胸を強く押し、自分の体を拘束している腕から逃れた。汐音に背を向け、火照った顔を隠す。

(何でおれが動揺させられているんだ……?)

「相澤先輩……?」
 
 汐音が一歩踏み出す気配がした。 

「……おれの側が幸せ? それは勘違いだ。おまえはまだ前世の騎士だった頃の記憶に引きずられているだけだ」

 動揺を悟られないように、意図して冷徹な声で言い切る。

「記憶に引きずられてなんかいませんよ。三峰汐音として、相澤和馬さんを好きになりました。だがらこの学校に来たんです。そばに居させてください」
「!」

 驚きのあまり和真は思わず振り返ってしまった。
 そして、そこにあったあまりに穏やかで包み込むような眼差しに言葉を失う。

「和真さん……」

 切なげに眉を寄せ、汐音が右手を伸ばしてきた。和真は無意識に後退る。

「す、好き? 何を、そんな……。……おれは、男だ。おまえも男だ!」
「そうですね。それが何なんです?」

(何なんです? って何だ?!)

 和真の思考は大混乱に陥る。

(何が起きている? 何が起きているんだ? 落ち着け! おれ!)

 早鐘を打つ心臓を右手で押さえながら一つ咳払いをすると、和真は平静を装い汐音に向き直った。自分より高い位置にある肩に両手を置く。

「良く聞くんだ三峰君。休み時間は終わった。君は自分の教室へ戻りなさい」
「和真さん」

 汐音が何事か言おうとして口を開いた。
 だが、和真はそれ以上何も言えないように言葉をかぶせる。

「おれは『戻れ』と言ったんだ。ほら、行け!」
「……」

 汐音は一瞬躊躇ためらいを見せたが、すぐに表情を引き締め、深く一礼をすると風のように走り去って行った。

(さすが前世で騎士だっただけはあるな……。命令には従順なんだ)

 そんなことをぼんやりと思う。一人取り残される形となった和真は、へなへなとその場に座り込んだ。

(おれは何でこれほど動揺しているんだ? この心臓のバクバクは何なんだ……?)

 痛みを伴うほどの心臓の鼓動に戸惑いしかない。これまでに告白されたことは何度かあった。
 しかし、これほど動揺したことはなかったからだ。

(相手が男だからか? それとも、好きだと言ったのがあいつだったからか……? だけど、あいつが追い求めているのはおれじゃない。フィーリアのはずだ)

 和真はしばらくの間体育座りの姿勢で両膝に額を押し当てて自問していたが答えが出るはずなどなく、力なく立ち上がった。

「……保健室で寝てこよう」

 小さく呟くと、階段をゆっくりと下り始めた。
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