7 / 45
7.好き。
しおりを挟む
屋上に向かう階段の踊り場で、相澤和真と三峰汐音はまるで時が止まったように見つめ合っていた。和真の腰に回されていた腕に力が籠る。
キーン コーン カーン コーン
休み時間の終わりを告げる鐘が鳴り響く。
はっとした和真は動く方の手で汐音の胸を強く押し、自分の体を拘束している腕から逃れた。汐音に背を向け、火照った顔を隠す。
(何でおれが動揺させられているんだ……?)
「相澤先輩……?」
汐音が一歩踏み出す気配がした。
「……おれの側が幸せ? それは勘違いだ。おまえはまだ前世の騎士だった頃の記憶に引きずられているだけだ」
動揺を悟られないように、意図して冷徹な声で言い切る。
「記憶に引きずられてなんかいませんよ。三峰汐音として、相澤和馬さんを好きになりました。だがらこの学校に来たんです。そばに居させてください」
「!」
驚きのあまり和真は思わず振り返ってしまった。
そして、そこにあったあまりに穏やかで包み込むような眼差しに言葉を失う。
「和真さん……」
切なげに眉を寄せ、汐音が右手を伸ばしてきた。和真は無意識に後退る。
「す、好き? 何を、そんな……。……おれは、男だ。おまえも男だ!」
「そうですね。それが何なんです?」
(何なんです? って何だ?!)
和真の思考は大混乱に陥る。
(何が起きている? 何が起きているんだ? 落ち着け! おれ!)
早鐘を打つ心臓を右手で押さえながら一つ咳払いをすると、和真は平静を装い汐音に向き直った。自分より高い位置にある肩に両手を置く。
「良く聞くんだ三峰君。休み時間は終わった。君は自分の教室へ戻りなさい」
「和真さん」
汐音が何事か言おうとして口を開いた。
だが、和真はそれ以上何も言えないように言葉を被せる。
「おれは『戻れ』と言ったんだ。ほら、行け!」
「……」
汐音は一瞬躊躇いを見せたが、すぐに表情を引き締め、深く一礼をすると風のように走り去って行った。
(さすが前世で騎士だっただけはあるな……。命令には従順なんだ)
そんなことをぼんやりと思う。一人取り残される形となった和真は、へなへなとその場に座り込んだ。
(おれは何でこれほど動揺しているんだ? この心臓のバクバクは何なんだ……?)
痛みを伴うほどの心臓の鼓動に戸惑いしかない。これまでに告白されたことは何度かあった。
しかし、これほど動揺したことはなかったからだ。
(相手が男だからか? それとも、好きだと言ったのがあいつだったからか……? だけど、あいつが追い求めているのはおれじゃない。フィーリアのはずだ)
和真はしばらくの間体育座りの姿勢で両膝に額を押し当てて自問していたが答えが出るはずなどなく、力なく立ち上がった。
「……保健室で寝てこよう」
小さく呟くと、階段をゆっくりと下り始めた。
キーン コーン カーン コーン
休み時間の終わりを告げる鐘が鳴り響く。
はっとした和真は動く方の手で汐音の胸を強く押し、自分の体を拘束している腕から逃れた。汐音に背を向け、火照った顔を隠す。
(何でおれが動揺させられているんだ……?)
「相澤先輩……?」
汐音が一歩踏み出す気配がした。
「……おれの側が幸せ? それは勘違いだ。おまえはまだ前世の騎士だった頃の記憶に引きずられているだけだ」
動揺を悟られないように、意図して冷徹な声で言い切る。
「記憶に引きずられてなんかいませんよ。三峰汐音として、相澤和馬さんを好きになりました。だがらこの学校に来たんです。そばに居させてください」
「!」
驚きのあまり和真は思わず振り返ってしまった。
そして、そこにあったあまりに穏やかで包み込むような眼差しに言葉を失う。
「和真さん……」
切なげに眉を寄せ、汐音が右手を伸ばしてきた。和真は無意識に後退る。
「す、好き? 何を、そんな……。……おれは、男だ。おまえも男だ!」
「そうですね。それが何なんです?」
(何なんです? って何だ?!)
和真の思考は大混乱に陥る。
(何が起きている? 何が起きているんだ? 落ち着け! おれ!)
早鐘を打つ心臓を右手で押さえながら一つ咳払いをすると、和真は平静を装い汐音に向き直った。自分より高い位置にある肩に両手を置く。
「良く聞くんだ三峰君。休み時間は終わった。君は自分の教室へ戻りなさい」
「和真さん」
汐音が何事か言おうとして口を開いた。
だが、和真はそれ以上何も言えないように言葉を被せる。
「おれは『戻れ』と言ったんだ。ほら、行け!」
「……」
汐音は一瞬躊躇いを見せたが、すぐに表情を引き締め、深く一礼をすると風のように走り去って行った。
(さすが前世で騎士だっただけはあるな……。命令には従順なんだ)
そんなことをぼんやりと思う。一人取り残される形となった和真は、へなへなとその場に座り込んだ。
(おれは何でこれほど動揺しているんだ? この心臓のバクバクは何なんだ……?)
痛みを伴うほどの心臓の鼓動に戸惑いしかない。これまでに告白されたことは何度かあった。
しかし、これほど動揺したことはなかったからだ。
(相手が男だからか? それとも、好きだと言ったのがあいつだったからか……? だけど、あいつが追い求めているのはおれじゃない。フィーリアのはずだ)
和真はしばらくの間体育座りの姿勢で両膝に額を押し当てて自問していたが答えが出るはずなどなく、力なく立ち上がった。
「……保健室で寝てこよう」
小さく呟くと、階段をゆっくりと下り始めた。
10
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》
市川パナ
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。
男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。
(旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
うまく笑えない君へと捧ぐ
西友
BL
本編+おまけ話、完結です。
ありがとうございました!
中学二年の夏、彰太(しょうた)は恋愛を諦めた。でも、一人でも恋は出来るから。そんな想いを秘めたまま、彰太は一翔(かずと)に片想いをする。やがて、ハグから始まった二人の恋愛は、三年で幕を閉じることになる。
一翔の左手の薬指には、微かに光る指輪がある。綺麗な奥さんと、一歳になる娘がいるという一翔。あの三年間は、幻だった。一翔はそんな風に思っているかもしれない。
──でも。おれにとっては、確かに現実だったよ。
もう二度と交差することのない想いを秘め、彰太は遠い場所で笑う一翔に背を向けた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる