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6.幸せ。
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正気に戻った相澤和真は、無言で席から立ち上がった。目の前でニコニコと笑みを浮かべて立っている新入生の手首をつかむと、ざわつく教室から連れ出す。
途中、何事かと訝る廊下にいた生徒達の視線にさらされ、無意識にどんどん歩く速度は速くなっていく。その間も三峰汐音は手を振り払いもせずに大人しくついて来た。
和真が汐音を連れてきたのは、屋上へと続く階段の踊り場だった。屋上の扉にはいつも鍵が掛かっていて、誰も来ることは無い。校内の喧騒が遠くに感じられ、和真が気に入っている場所だった。
「どういうことだ? 何でここの制服を着ている?」
掴んでいた手首を離し、振り向きざま問いただす。汐音は一瞬驚いたように僅かに目を見開いたが、すぐににっこりとほほ笑んだ。
「今日から、ここの生徒になりました。白羽学園1年三峰汐音です。相澤先輩! これから宜しくお願いします!」
教室でしたのと同じように、ビシッと両手を体の横に付けた。真っ直ぐな姿勢で声高々に告げ、90度の角度で頭を下げる。まるで軍人のようなキレッキレのお辞儀だった。
「生徒……? 1年! ここを受けていたのか?!」
呆然と頭を下げている汐音の後頭部を見つめながら混乱した思考のまま呟く。
「はい! 相澤先輩と同じ高校に通う為に俺、すっごく頑張りました!! 褒めてください」
頭を上げた汐音はとても嬉しそうに声を弾ませる。その顔はキラキラと輝いて見えて、あまりの眩しさに思わず掌で顔を隠す。
「今日からずっとそばにいられます!」
そう言って喜ぶ姿は、まるで褒美をねだる大型犬のようだった。汐音の背後に激しく揺れる尻尾の幻覚が見える。嬉しそうにズイッと身を寄せてきた汐音は、驚くことに記憶にあった姿よりかなり背が伸びていた。それも和真の背をすでに超えている。
「何でそうなる? おれは言ったよな? これからは自分の幸せを探せって!」
抜かれた身長差を無くすかのように、和真はつま先立ちになり語気を強めた。
しかし、勢いが強すぎてバランスを崩し、体が傾く。
(あっ! やば……い──)
倒れると覚悟した瞬間、汐音の腕が和真の体を抱き留めた。同じ男であるからこそ、その腕の逞しさに驚く。反射的に顔を上げ、瞬時に思考が停止する。ぶつかりそうな位置に澄んだ綺麗な瞳があったからだ。
「……だからですよ。私の幸せは、あなたの側にいることだ」
笑みを消した汐音は、和真を軽々と腕に抱き留めたまま真摯な声で告げた。
途中、何事かと訝る廊下にいた生徒達の視線にさらされ、無意識にどんどん歩く速度は速くなっていく。その間も三峰汐音は手を振り払いもせずに大人しくついて来た。
和真が汐音を連れてきたのは、屋上へと続く階段の踊り場だった。屋上の扉にはいつも鍵が掛かっていて、誰も来ることは無い。校内の喧騒が遠くに感じられ、和真が気に入っている場所だった。
「どういうことだ? 何でここの制服を着ている?」
掴んでいた手首を離し、振り向きざま問いただす。汐音は一瞬驚いたように僅かに目を見開いたが、すぐににっこりとほほ笑んだ。
「今日から、ここの生徒になりました。白羽学園1年三峰汐音です。相澤先輩! これから宜しくお願いします!」
教室でしたのと同じように、ビシッと両手を体の横に付けた。真っ直ぐな姿勢で声高々に告げ、90度の角度で頭を下げる。まるで軍人のようなキレッキレのお辞儀だった。
「生徒……? 1年! ここを受けていたのか?!」
呆然と頭を下げている汐音の後頭部を見つめながら混乱した思考のまま呟く。
「はい! 相澤先輩と同じ高校に通う為に俺、すっごく頑張りました!! 褒めてください」
頭を上げた汐音はとても嬉しそうに声を弾ませる。その顔はキラキラと輝いて見えて、あまりの眩しさに思わず掌で顔を隠す。
「今日からずっとそばにいられます!」
そう言って喜ぶ姿は、まるで褒美をねだる大型犬のようだった。汐音の背後に激しく揺れる尻尾の幻覚が見える。嬉しそうにズイッと身を寄せてきた汐音は、驚くことに記憶にあった姿よりかなり背が伸びていた。それも和真の背をすでに超えている。
「何でそうなる? おれは言ったよな? これからは自分の幸せを探せって!」
抜かれた身長差を無くすかのように、和真はつま先立ちになり語気を強めた。
しかし、勢いが強すぎてバランスを崩し、体が傾く。
(あっ! やば……い──)
倒れると覚悟した瞬間、汐音の腕が和真の体を抱き留めた。同じ男であるからこそ、その腕の逞しさに驚く。反射的に顔を上げ、瞬時に思考が停止する。ぶつかりそうな位置に澄んだ綺麗な瞳があったからだ。
「……だからですよ。私の幸せは、あなたの側にいることだ」
笑みを消した汐音は、和真を軽々と腕に抱き留めたまま真摯な声で告げた。
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