生まれる前から好きでした。

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5.新入生。

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 四月。
 新学期の学校というのは、どこか落ち着きがない。
 特に入学式がある日など、学校全体がソワソワしているように感じられた。2年に進級した相澤和真あいざわかずまは新しく決まった自分の席で力なく机の上に打っ伏していた。

「和真!」

 1年から同じクラスの福井奏ふくいそうがふざけて和真の背後から覆いかぶさって来た。人と群れず、自ら一人でいる事を望んでいる和真に唯一構ってくる男だ。

「ぐふっ、お、重い……。どいてくれ」
「あれ? 何か、疲れてる?」

 素直に体を離し、奏が顔を覗き込んできた。日に焼けた精悍せいかんな顔のドアップに、驚いて身を起こす。ニコニコ顔の奏に対して、和真はフイッと顔を背けた。

「あれ? 朝からご機嫌斜めだな~。どうした?」
「……嫌な夢を見たんだ。……そのせいで、あまり眠れていない」

 黒い前髪をゆっくりとかき上げながら和真は気だるげに呟く。

「夢? どんな?」
「……」

 すぐに答える事が出来ない和真の姿を、奏は僅かに首を傾げて眺めている。

「なるほど。言葉にしたくないほど、ってことだな?」
「そうだな」
「そうかそうか」

 まるで幼い子供にするように、奏が和真の頭をぐしゃぐしゃと撫でまわす。和真は鬱陶うっとうしそうに奏を睨んだ。
 だが、睨まれた本人は嬉しそうにしている。
 と、その時、教室の扉が勢いよく開いた。

「ねえ! ねえ! 今年の一年の男子、マジやばい! 超イケメンがいた!」

 教室の中へ飛び込んで来た明るい声に、教室中の視線が集まる。

「見た! 見た! 私も見たよ! ヤバいよね! 背が高くて、モデルみたいな子でしょ! 外から来た子らしいよ」

 突然、クラスの女達が騒ぎ始めた。
 私立白羽学園高校は初等教育から大学院まで一貫教育の学校だ。外から来たとは、高等部へ受験を経て入学して来た者達の事だ。それもかなりの難関を突破してきたことになる。
 
「俺達は可愛い女の子がいるのか知りたいよな? 和真、ちょっと、見に行ってみないか?」
「別にいい。それより、眠い……」

 欠伸を噛み殺し、和真は再び机の上に身を伏せる。奏は近くにいたクラスメイト達に話かけられ、そのまま楽し気に会話をしている。教室内はかなりにぎやかな状態になっていた。
 だが、その賑やかさが突然静まり返る。

「このクラスに、相澤和真さんはおられますか?」

 静かな教室内に響いたのは声変わりを済ませた良く通る若い男の声だった。

「おい! 和真、おまえ呼ばれてるぞ。知り合いか?」

 奏に肩を揺すられ、和真は眠そうな目をこすりながら教室の入り口に顔を向ける。
 そこには、新一年生の証である胸元に黄色い造花を付けた男がこちらを凝視して立っていた。

「……え?」

 和真の目が徐々に大きく見開いていく。その間にも、入り口に立っていた新入生は周りの視線をまったく気にする様子もなく、上級生の教室の中へと入って来た。何の躊躇ためらいもなく、ただまっすぐに和真の方へ向って歩いて来る。

「相澤先輩! 今日から宜しくお願いします!」

 和真の目の前に立つと90度の角度で腰を折り、挨拶をしてきた。顔を上げると、呆然と見上げている和真ににっこりとほほ笑みかけてくる。その男は、一度会ったら忘れようがない整った容姿をしていた。色素の薄い茶色い瞳に和真の驚いた顔が映っている。

「……汐音?」

 和真の呟きに、汐音はぱっと顔を輝かせた。

「覚えていてくださったのですね! 嬉しいです!」
「え? 何で、ここに……? え? え?? おまえは、もう自由──」

 目の前の状況に頭がついてこれず動揺する和真に反し、汐音は落ち着いた様子で微笑んでいる。

「はい。三峰汐音として会いに来ました。相澤先輩!」
「……」

 フリーズしたままの和真をよそに、教室内は汐音の鮮烈な笑顔を見た女達が一斉に黄色い悲鳴を上げ、大騒ぎになっていたのだった。
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