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「アンティネット? アンティネット!」
スハルトは、アンティネットがついてこないのに気づき、フローレインを階段の端に横たえて、すぐさま牢へと戻りだした。
「早くしろ。スハルトが戻ってくる」
アンティネットは、しかめた眉を緩めて、
「バカみたい」
と、つぶやいた。
「何だって?」
「あなたを殺して、誰が喜ぶの? わたしは捕まって牢獄行き。喜ぶのは私たちふたりを引き裂いた国王一族だけ。スハルトにだって迷惑をかけてしまう」
アンティネットは、クスッと笑い出して、杖を引き抜いた。
「……君はアテーネなの?」
「そう。屋敷にあった手鏡に閉じ込めていた記憶を覗いて、この頭に取り戻したの」
アンティネットは、こめかみに指を当てて見せた。
「……そうか。なら、よかった。あんな物騒な格好できたから、驚いたよ。本気で復讐されるかと思ったよ」
「わたしは、あなたにやっつけてほしかったかな」
「昔の婚約者にそんなことできるわけないだろ」
安堵したように、デスモント卿は床に座り込む。
「おい……アンティネット、何してた」
スハルトが走り込んできて、アンティネットを見つめた。その落ち着き払った態度や目つきに、はっとした顔になる。
「アテーネ騎士団長殿。お目覚めに?」
「ええ。スハルト、よくこれまで15年間、言いつけ通りに隠し通してくれました。態度の悪さも最高です。ありがとう」
「そんな、めっそうもない。これまでの指示通りに15才になるまで放っておいてしまい……」
スハルトは、膝をついて、深々と頭を垂れる。アンティネットは慌てて手を振り、
「やめてやめて! わたし、今、娘のアンティネットなんだから。そんな挨拶されたら、ほんとに困っちゃうから本当にやめてよ……」
「ですが、いくら年下でも、アテーネ様であり、上官であることに変わりありませんから」
「ぷう! まったく、昔から頭デッカチなんだから……」
アンティネットは頭をかきながら、ちゃんと改まってデスモント卿に向き直り、
「わたしがデスモントと婚約したとたん、私たちの魔力を恐れて、国王から騎士団長としてフィアンセを殺すよう指令を受けたのよね。出る杭は打たれるってやつ。その苦肉の策が、このわたしの偽装殺人。新築した屋敷を穴だらけにしたのは、涙出るほどつらかったよね。デスモント、本当にごめんなさい」
「アテーネ、ぼくは君を恨んではいないよ。独房は窮屈だが、厄介ごとに巻き込まれずに、長年の夢だった飛行船の研究に打ち込めた。君の方が、ろくな生活を送れずに苦労したろ。ぼくの闇魔法を施したのは正解だったな」
デスモント卿は、アンティネットの首筋の痣を見ながら言った。
「うん、おかげさまで助かった。わたしは自分で魔法をかけて赤ちゃんになって、第2の人生、それなりに苦労もしたけど、おかげで国王の目を誤魔化せた。デスモントには、わたしを殺した罪を着せてしまったね。だから、すごく後悔してるの」
アンティネットは、杖をデスモント卿に差し出して、
「だから、復讐しようとしたわたしをフルボッコして飛行船で脱獄して。そして、他の国で自由に生きてほしい」
デスモント卿は、キョトンとして、アンティネットの新たな計画を聞いていた。
「ずいぶん、引きこもり生活をしてきたから、外の様子は分からないんだ。何しろ、かつての婚約者だった君とせっかく再会したばかりで、さよなら、はないだろ? それとも、まさか、グレッグとかいう公爵子息のことを本気で好きなのか?」
「あなただって、フローレイン嬢のことをどう思ってるのよ?」
アンティネットが問い返すと、デスモント卿はふうと一息ついてから、
「確かに……好きだよ。ただあの娘はグレッグに夢中だ。君の闇魔法で作った恋草を買って飲ませるほどに」
「やっぱり……そうだったの。グレッグの頭がすっからかんだったからびっくりしたわ。他のご令嬢に買いに行かせていたのは、そのせいだったのね」
アンティネットは、納得したようにふむふむ頷いた。
スハルトは腕を組んで、ふたりを見くらべながら、
「それで、お二人の今後はどうします?」
と、尋ねた。
アンティネットは、デスモント卿をまっすぐに見て頭を下げた。
「デスモント……。本当に悪いけど、わたし、まだグレッグをあきらめたくないの。大好きなのは彼なのよ。国王もこの国の政治だって、色々文句もあるけど、でもグレッグとなら生きてみたいって思えたから」
アンティネットは、しみじみと告白した。
デスモントは、頷いて、
「ぼくはこの国にはうんざりしているから、仕方ないね。それじゃ、昔の婚約者同士、ひさしぶりにドンパチやるか?」
と軽く肩を回すと、アンティネットに笑いかける。
「そうね。やりますか? スハルト、結界を解除しなさい!」
と、彼女も笑顔で頷いて杖を構えると、格子の結界の穴の中をくぐり、牢の中に入っていった。
スハルトは、アンティネットがついてこないのに気づき、フローレインを階段の端に横たえて、すぐさま牢へと戻りだした。
「早くしろ。スハルトが戻ってくる」
アンティネットは、しかめた眉を緩めて、
「バカみたい」
と、つぶやいた。
「何だって?」
「あなたを殺して、誰が喜ぶの? わたしは捕まって牢獄行き。喜ぶのは私たちふたりを引き裂いた国王一族だけ。スハルトにだって迷惑をかけてしまう」
アンティネットは、クスッと笑い出して、杖を引き抜いた。
「……君はアテーネなの?」
「そう。屋敷にあった手鏡に閉じ込めていた記憶を覗いて、この頭に取り戻したの」
アンティネットは、こめかみに指を当てて見せた。
「……そうか。なら、よかった。あんな物騒な格好できたから、驚いたよ。本気で復讐されるかと思ったよ」
「わたしは、あなたにやっつけてほしかったかな」
「昔の婚約者にそんなことできるわけないだろ」
安堵したように、デスモント卿は床に座り込む。
「おい……アンティネット、何してた」
スハルトが走り込んできて、アンティネットを見つめた。その落ち着き払った態度や目つきに、はっとした顔になる。
「アテーネ騎士団長殿。お目覚めに?」
「ええ。スハルト、よくこれまで15年間、言いつけ通りに隠し通してくれました。態度の悪さも最高です。ありがとう」
「そんな、めっそうもない。これまでの指示通りに15才になるまで放っておいてしまい……」
スハルトは、膝をついて、深々と頭を垂れる。アンティネットは慌てて手を振り、
「やめてやめて! わたし、今、娘のアンティネットなんだから。そんな挨拶されたら、ほんとに困っちゃうから本当にやめてよ……」
「ですが、いくら年下でも、アテーネ様であり、上官であることに変わりありませんから」
「ぷう! まったく、昔から頭デッカチなんだから……」
アンティネットは頭をかきながら、ちゃんと改まってデスモント卿に向き直り、
「わたしがデスモントと婚約したとたん、私たちの魔力を恐れて、国王から騎士団長としてフィアンセを殺すよう指令を受けたのよね。出る杭は打たれるってやつ。その苦肉の策が、このわたしの偽装殺人。新築した屋敷を穴だらけにしたのは、涙出るほどつらかったよね。デスモント、本当にごめんなさい」
「アテーネ、ぼくは君を恨んではいないよ。独房は窮屈だが、厄介ごとに巻き込まれずに、長年の夢だった飛行船の研究に打ち込めた。君の方が、ろくな生活を送れずに苦労したろ。ぼくの闇魔法を施したのは正解だったな」
デスモント卿は、アンティネットの首筋の痣を見ながら言った。
「うん、おかげさまで助かった。わたしは自分で魔法をかけて赤ちゃんになって、第2の人生、それなりに苦労もしたけど、おかげで国王の目を誤魔化せた。デスモントには、わたしを殺した罪を着せてしまったね。だから、すごく後悔してるの」
アンティネットは、杖をデスモント卿に差し出して、
「だから、復讐しようとしたわたしをフルボッコして飛行船で脱獄して。そして、他の国で自由に生きてほしい」
デスモント卿は、キョトンとして、アンティネットの新たな計画を聞いていた。
「ずいぶん、引きこもり生活をしてきたから、外の様子は分からないんだ。何しろ、かつての婚約者だった君とせっかく再会したばかりで、さよなら、はないだろ? それとも、まさか、グレッグとかいう公爵子息のことを本気で好きなのか?」
「あなただって、フローレイン嬢のことをどう思ってるのよ?」
アンティネットが問い返すと、デスモント卿はふうと一息ついてから、
「確かに……好きだよ。ただあの娘はグレッグに夢中だ。君の闇魔法で作った恋草を買って飲ませるほどに」
「やっぱり……そうだったの。グレッグの頭がすっからかんだったからびっくりしたわ。他のご令嬢に買いに行かせていたのは、そのせいだったのね」
アンティネットは、納得したようにふむふむ頷いた。
スハルトは腕を組んで、ふたりを見くらべながら、
「それで、お二人の今後はどうします?」
と、尋ねた。
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「デスモント……。本当に悪いけど、わたし、まだグレッグをあきらめたくないの。大好きなのは彼なのよ。国王もこの国の政治だって、色々文句もあるけど、でもグレッグとなら生きてみたいって思えたから」
アンティネットは、しみじみと告白した。
デスモントは、頷いて、
「ぼくはこの国にはうんざりしているから、仕方ないね。それじゃ、昔の婚約者同士、ひさしぶりにドンパチやるか?」
と軽く肩を回すと、アンティネットに笑いかける。
「そうね。やりますか? スハルト、結界を解除しなさい!」
と、彼女も笑顔で頷いて杖を構えると、格子の結界の穴の中をくぐり、牢の中に入っていった。
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