17 / 28
8ー2
しおりを挟む
翌日の放課後、フローレインがグレッグに恋草の製造方法についての手順書を手渡すと、
「……これは凄い。ありがとう」
と、彼は喜んでくれた。
「でもね、グレッグ。あなたの魔術レベルだから、注意いたしますけれど。この魔術は彼女が魔法使いでないと、きっと作れないですわ。しかも、闇魔法を扱う者でないとね。優秀なわたくしでさえ、できないレベルですわ……」
「いいんです。きっと、アンティネットなら出来ると信じているから。彼女は特別に魔力が桁違いに強いからね。ただ……彼女が住んでいるのは辺境の村で、馬車で3日はかかる」
グレッグは、残念そうに肩をすぼめた。
「ぼくは、義理の両親から遠出を禁じられている。それに手紙なんて出して、アンティネットの叔父夫婦が彼女に何をするか、心配で……」
フローレインは、眉を細め思案した後、
「グレッグ、わたくしに良い案がありますわ。この手順書をアンティネット様に直接、渡しますわ。正確には、私たちと関わりがないような方にお願いするつもりです。わたくしも多忙で、今はスハルト先生の特別指導で3日も都を離れられません」
「……いいの。君にそんなことまでお願いしてしまって」
「いいのです。グレッグの助けになれるなら、仕方ないですわね。本当なら、無駄な時間は費やしたくないのですが」
「ありがとう! これでアンティネットが救われる。本当にありがとう!」
再び、グレッグの満面の笑みと共に手を握られて、フローレインの胸は熱くなってしまった。
***
次の日の昼休み、フローレインはマリアンヌ嬢を校舎裏に呼び出した。
マリアンヌは、恐縮して肩をすぼめながら、
「フローレイン様、わたし、ずっと謝りたいと思っていたの。殿下とあんなことになってしまったこと、本当にごめんなさい!」
と、頭を下げた。
それから目を潤ませ、フローレインの無表情な顔色をうかがいながら、
「何か、フローレイン様のお役に立てられるなら、わたし、何でもやりますから」
(マリアンヌは優しい方。なにも悪くない。本当は殿下が全部、悪いのですけれど……)
フローレインは、制服の上着のポケットから封筒を取り出した。
「マリアンヌさん。この手紙をアンティネットという方に渡してください。場所は往きで馬車で三日かかる距離の村市場です。それから、1ヵ月ごとに彼女から恋草を全て買い取るように。旅費や購入代金は支払います。惚れ惚れ花、忘れ草、居眠り草は少々。あなた自身が行くのも約束です。分かりましたね」
「分かりました。けれど、往復で6日かかるなんて、ちょっと大変ですかね……」
「お嫌ですの? 浮気をして深くわたくしを傷つけた罪に比べたら、大したことではないですわよ」
フローレインがわざと睨みつけると、マリアンヌは慌てて手をヒラヒラさせて、
「そんな意味では……。分かりました。お引き受けします」
「当たり前ですけれど、この話は他言なさらないでくださいね。あなた、その辺、お人好しなところがございますからね。この草は販売が禁じられています。それを購入した者も罪に問わることを肝に命じなさい。分かりましたわね?」
「は、はい。大丈夫です」
マリアンヌはぺこりと頭を垂れて、そそくさと退散した。
フローレインは彼女を見送ると、校舎の壁にもたれて、ため息をつく。
(……なんてことしてしまったのかしら。でも、仕方なかったのよ)
フローレインは、罪悪感を何とか抑え込んで、何食わぬ顔を取り繕い、教室に戻っていった。
「……これは凄い。ありがとう」
と、彼は喜んでくれた。
「でもね、グレッグ。あなたの魔術レベルだから、注意いたしますけれど。この魔術は彼女が魔法使いでないと、きっと作れないですわ。しかも、闇魔法を扱う者でないとね。優秀なわたくしでさえ、できないレベルですわ……」
「いいんです。きっと、アンティネットなら出来ると信じているから。彼女は特別に魔力が桁違いに強いからね。ただ……彼女が住んでいるのは辺境の村で、馬車で3日はかかる」
グレッグは、残念そうに肩をすぼめた。
「ぼくは、義理の両親から遠出を禁じられている。それに手紙なんて出して、アンティネットの叔父夫婦が彼女に何をするか、心配で……」
フローレインは、眉を細め思案した後、
「グレッグ、わたくしに良い案がありますわ。この手順書をアンティネット様に直接、渡しますわ。正確には、私たちと関わりがないような方にお願いするつもりです。わたくしも多忙で、今はスハルト先生の特別指導で3日も都を離れられません」
「……いいの。君にそんなことまでお願いしてしまって」
「いいのです。グレッグの助けになれるなら、仕方ないですわね。本当なら、無駄な時間は費やしたくないのですが」
「ありがとう! これでアンティネットが救われる。本当にありがとう!」
再び、グレッグの満面の笑みと共に手を握られて、フローレインの胸は熱くなってしまった。
***
次の日の昼休み、フローレインはマリアンヌ嬢を校舎裏に呼び出した。
マリアンヌは、恐縮して肩をすぼめながら、
「フローレイン様、わたし、ずっと謝りたいと思っていたの。殿下とあんなことになってしまったこと、本当にごめんなさい!」
と、頭を下げた。
それから目を潤ませ、フローレインの無表情な顔色をうかがいながら、
「何か、フローレイン様のお役に立てられるなら、わたし、何でもやりますから」
(マリアンヌは優しい方。なにも悪くない。本当は殿下が全部、悪いのですけれど……)
フローレインは、制服の上着のポケットから封筒を取り出した。
「マリアンヌさん。この手紙をアンティネットという方に渡してください。場所は往きで馬車で三日かかる距離の村市場です。それから、1ヵ月ごとに彼女から恋草を全て買い取るように。旅費や購入代金は支払います。惚れ惚れ花、忘れ草、居眠り草は少々。あなた自身が行くのも約束です。分かりましたね」
「分かりました。けれど、往復で6日かかるなんて、ちょっと大変ですかね……」
「お嫌ですの? 浮気をして深くわたくしを傷つけた罪に比べたら、大したことではないですわよ」
フローレインがわざと睨みつけると、マリアンヌは慌てて手をヒラヒラさせて、
「そんな意味では……。分かりました。お引き受けします」
「当たり前ですけれど、この話は他言なさらないでくださいね。あなた、その辺、お人好しなところがございますからね。この草は販売が禁じられています。それを購入した者も罪に問わることを肝に命じなさい。分かりましたわね?」
「は、はい。大丈夫です」
マリアンヌはぺこりと頭を垂れて、そそくさと退散した。
フローレインは彼女を見送ると、校舎の壁にもたれて、ため息をつく。
(……なんてことしてしまったのかしら。でも、仕方なかったのよ)
フローレインは、罪悪感を何とか抑え込んで、何食わぬ顔を取り繕い、教室に戻っていった。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
【完結】あなただけが特別ではない
仲村 嘉高
恋愛
お飾りの王妃が自室の窓から飛び降りた。
目覚めたら、死を選んだ原因の王子と初めて会ったお茶会の日だった。
王子との婚約を回避しようと頑張るが、なぜか周りの様子が前回と違い……?
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
真実の愛の言い分
豆狸
恋愛
「仕方がないだろう。私とリューゲは真実の愛なのだ。幼いころから想い合って来た。そこに割り込んできたのは君だろう!」
私と殿下の結婚式を半年後に控えた時期におっしゃることではありませんわね。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる