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 翌日の放課後、フローレインがグレッグに恋草の製造方法についての手順書を手渡すと、

「……これは凄い。ありがとう」

と、彼は喜んでくれた。

「でもね、グレッグ。あなたの魔術レベルだから、注意いたしますけれど。この魔術は彼女が魔法使いでないと、きっと作れないですわ。しかも、闇魔法を扱う者でないとね。優秀なわたくしでさえ、できないレベルですわ……」 

「いいんです。きっと、アンティネットなら出来ると信じているから。彼女は特別に魔力が桁違いに強いからね。ただ……彼女が住んでいるのは辺境の村で、馬車で3日はかかる」

 グレッグは、残念そうに肩をすぼめた。

「ぼくは、義理の両親から遠出を禁じられている。それに手紙なんて出して、アンティネットの叔父夫婦が彼女に何をするか、心配で……」

 フローレインは、眉を細め思案した後、

「グレッグ、わたくしに良い案がありますわ。この手順書をアンティネット様に直接、渡しますわ。正確には、私たちと関わりがないような方にお願いするつもりです。わたくしも多忙で、今はスハルト先生の特別指導で3日も都を離れられません」

「……いいの。君にそんなことまでお願いしてしまって」

「いいのです。グレッグの助けになれるなら、仕方ないですわね。本当なら、無駄な時間は費やしたくないのですが」

「ありがとう! これでアンティネットが救われる。本当にありがとう!」

 再び、グレッグの満面の笑みと共に手を握られて、フローレインの胸は熱くなってしまった。


 ***


 次の日の昼休み、フローレインはマリアンヌ嬢を校舎裏に呼び出した。

 マリアンヌは、恐縮して肩をすぼめながら、

「フローレイン様、わたし、ずっと謝りたいと思っていたの。殿下とあんなことになってしまったこと、本当にごめんなさい!」

と、頭を下げた。

 それから目を潤ませ、フローレインの無表情な顔色をうかがいながら、

「何か、フローレイン様のお役に立てられるなら、わたし、何でもやりますから」

(マリアンヌは優しい方。なにも悪くない。本当は殿下が全部、悪いのですけれど……)

 フローレインは、制服の上着のポケットから封筒を取り出した。

「マリアンヌさん。この手紙をアンティネットという方に渡してください。場所は往きで馬車で三日かかる距離の村市場です。それから、1ヵ月ごとに彼女から恋草を全て買い取るように。旅費や購入代金は支払います。惚れ惚れ花、忘れ草、居眠り草は少々。あなた自身が行くのも約束です。分かりましたね」

「分かりました。けれど、往復で6日かかるなんて、ちょっと大変ですかね……」

「お嫌ですの? 浮気をして深くわたくしを傷つけた罪に比べたら、大したことではないですわよ」

 フローレインがわざと睨みつけると、マリアンヌは慌てて手をヒラヒラさせて、

「そんな意味では……。分かりました。お引き受けします」

「当たり前ですけれど、この話は他言なさらないでくださいね。あなた、その辺、お人好しなところがございますからね。この草は販売が禁じられています。それを購入した者も罪に問わることを肝に命じなさい。分かりましたわね?」

「は、はい。大丈夫です」

 マリアンヌはぺこりと頭を垂れて、そそくさと退散した。

 フローレインは彼女を見送ると、校舎の壁にもたれて、ため息をつく。

(……なんてことしてしまったのかしら。でも、仕方なかったのよ)

 フローレインは、罪悪感を何とか抑え込んで、何食わぬ顔を取り繕い、教室に戻っていった。
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