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「陛下……」

 勇者は感動した面持ちで国王を見つめた。

 王国の人たちの自分に対する信頼がとても嬉しく感じられた。

(俺はこの人たちのためにも、一生懸命頑張っていきたい……)

 そう思うと心が熱くなった。

 そして勇者はゆっくりと頭を下げたが、宰相だけは首を上げたままだ。

「納得できません。わたしは公爵家だ。本来であれば、王位継承権はわたしにあるはずだ。それをたかが、どこの馬の骨とも分からぬ者たちに譲るなど──」

「では聞こう。そなたは勇者殿よりも優秀なのか?」

 国王は宰相を睨みつけた。

 その視線には有無を言わせない迫力があった。

「少なくても、わたしにはふさわしい地位がある……」

 宰相は思わず言葉を詰まらせる。

 確かに勇者は強かった。

 ──しかしそれだけではない何かが勇者には感じられた。

 それは目に見えないオーラのようなものかもしれないし、あるいはもっと別の何かかもしれない。

 ……いずれにしても自分にはないものだということだけは分かっていた。

「エルドレッド様は、下賎のものではありません!」

 これまで黙っていたセリーヌが口を開いた。

「アルティア王国の近衛騎士団に所属していた勇士ですわ。近衛騎士団に入隊するには子爵以上の身分でないと所属できません。王国の末娘をかばって負傷して無念に除隊となりましたが、己の剣術を磨くために勇者として生きてこられた方。わたしは、エルドレッド様をお慕いしております。違いますね。愛しちゃってます! ……はっ! ……き、聞かなかったことにしてください!」

 セリーヌは顔を真っ赤にするとうつむいてしまった。

 周りの人々から温かい視線が集まる。

 ──勇者も思わず苦笑いをしてしまったが、国王は大きな声で笑い出した。

「はっはっは……面白いことを言う聖女様だ。だが気に入ったぞ」

 それでも、宰相は何とか笑いをこらえて、話をもとに戻そうとする。

「ちょっと笑い話にしないでくださいませんか。確かに聖女たるもの、ウソなどはつかないことは承知しています。しかし、彼女は勇者殿にゾッコンだとすると、私情で判断が鈍っておられるかもしれない。本当に聖女様は信頼に足る人物か、ご証明くださいませんか?」

「わかりました」

 セリーヌは頷くと、首から下げたネックレスのロケットを開けて見せた。

 それには、アルティア王家の紋章が刻まれている。
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