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 勇者は安堵した表情を浮かべると、そっと彼女の髪をなでてやった。

 さらさらとした感触が心地よく、触れているだけで心が癒されていくような気がする。

(俺も大好きだよ)

 心の中でそうつぶやくと、勇者もゆっくりと目を閉じたのだった。



☆☆☆☆☆☆




 勇者が目を覚ますと、美しい天蓋の付いたベッドの上に横になっていた。

 そこは豪奢な造りをした部屋で、窓からは明るい陽射しが差し込んできている。

(そうか……俺はあれから気を失っていたのか……)

 勇者はぼんやりとした頭で考えていた。

 徐々に意識がはっきりしてくるにつれて記憶が蘇ってくる。

 巨大魔物を倒したあと、力尽きて気を失ってしまったことを──。

(そうだ……セリーヌは無事だろうか?)

 勇者は慌てて起き上がると周囲を見回した。

 すると隣に眠っていた少女の姿が目に入った。

 彼女はまだ眠っているようで静かな寝息を立てている。

 勇者の上半身には包帯が巻かれてあった。

 どうやらこの城の誰かが治療してくれたらしい。

「セリーヌ……」

 勇者は彼女の頭をなでると優しく声をかけた。

 すると彼女はゆっくりと目を開けた。

 そしてぼんやりとした様子で勇者を見つめると、花が咲くような笑顔を浮かべた。

「エルドレッド……! 目が覚めたのね!」

「ああ……きみも無事なようでよかったよ」

 勇者も微笑むと彼女に言った。

 彼女が無事で本当に良かったと思う。

「あら……こんな大けがをしているじゃない!」

 セリーヌは心配そうに勇者の腕や胸などに巻かれた包帯を見て言った。

 その口調とは裏腹に表情はとても嬉しそうである。

 勇者は照れ隠しをするように頭を搔くと、彼女に言った。

「まあ、名誉の負傷ってやつだ……気にする必要はないさ」

「何言ってるのよ! ばかっ!」

 セリーヌは顔を真っ赤にして怒り出したが、すぐに笑顔に戻ると優しく語りかけてきた。

「ありがとう……エルドレッド……本当にありがとう……」

 思わず勇者を抱きしめる。

「い、痛っ……傷が開くっ!」

「あっ……ごめんなさい……」

 セリーヌは慌てて離れると、照れくさそうに笑った。

 勇者もつられて笑うと彼女の頭をなでる。

 そして改めて思ったのだ。

 ──自分はこの少女を愛しているのだと……。

(もう絶対に離さないからな……!)

 そう心の中でつぶやくと、勇者はセリーヌを強く抱きしめた。
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