【完結】なんで俺?勇者はなぜか聖女に慕われる。

朝日みらい

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 じっとしたまま、こちらを睨んでいるだけだ。

 だが、その赤く燃えるような目には敵意が満ち溢れていることがわかる。

(来るか……!?)

 勇者は警戒しながら相手の動きを待った。

 だが、巨大魔物はなかなか動こうとはしない。

 ただこちらを睨みつけてくるだけである……。

 セリーヌは勇者のひざ元で倒れて苦しそうにしていた。

 巨大魔物の威圧感に押しつぶされそうになっているのかもしれない。

「セリーヌ! 大丈夫か!?」

 勇者は必死に声をかけたが返事はない。

 ……ただ荒い息遣いだけが聞こえてくるだけだ。

 もう限界かもしれない。

 ──そう思ったときだった。

 巨大魔物が再び動き出したのである!

(くそっ……やられる!)

 そう思った瞬間、突然巨大魔物の姿が見えなくなった。

 いや、消えたのではない──目にも留まらぬ速さで動いたのだ!

  その動きはまるで竜巻のようで、一瞬にして勇者の目の前まで迫ってくる。


 ──勇者は走馬灯のように10年前のことを思い出していた。

 アルティア王国の小さな少女を魔物から助けた時に放ったあの神技──その技を使う代償は大きいが、今、愛する彼女を救うにはそれしかない。

(──神速剣)

 勇者は心の中でそうつぶやくと、一気に踏み込んだ。

 そして渾身の力を込めて剣を一閃させる!

「はぁーっ!!」

 気合のこもった一撃だった。

 その一撃は見事に巨大魔物を真っ二つに切り裂いた。

 さすがの巨大魔物もこれには耐えられなかったようだ。

 ──断末魔の悲鳴を上げるとその場に崩れ落ちてしまった。

 そしてそのまま動かなくなってしまったのだ。

 勇者はふぅーっと息を吐くとその場に座り込んだ。

 ……どうやら無事に倒すことができたようだ。

 だが、激しいめまいが勇者を襲う……。

(くそっ……こんなときに……!)

 勇者は必死に立ち上がろうとしたが、もはやそんな力は残っていなかった。

 意識を失いかけたときだった──突然セリーヌが抱きついてきた。

 そして彼女は耳元でささやくように言った。

「エルドレッド……ありがとう……」

 そして唇に柔らかい感触が触れた。

 勇者は驚いて目を見開くと彼女の顔を見つめた。

 ……するとそこには美しい笑顔が浮かんでいた。

「大好きよ」

 そうつぶやくと、彼女は目を閉じた。

 ──そしてぐったりとした様子で勇者に寄りかかってきた。

「セリーヌ……?」

 勇者は声をかけたが返事はない。

 ……どうやら眠ってしまったようだった。

 だが、その表情はとても安らかで幸せそうである……。
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