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「はぁ……はぁ……」

「うふふ……エルドレッドったら、かわいいわ」

 セリーヌは満足そうな笑みを浮かべていた。

 その表情はとても艶めかしく、見ているだけでドキドキしてしまうほどだ。

「もう逃げられないわよ? だってあなたは私のものなんだもの……」

 そういうと再び口づけをしてきたのである。

 今度は舌を入れてきて絡めてくるような濃厚なものだった。

 勇者の理性は完全に吹き飛んでしまいそうになる。

 だが、そこでふいに我に返った勇者は慌てて引き離す。

「待ってくれ……セリーヌ!」

 すると聖女は不機嫌そうな顔をすると、勇者を押し倒したまま見下ろしてきた。

 その瞳には涙が浮かんでいるように見える。

「どうして……私じゃダメなの?」

「いや、そういうわけじゃないんだけれど……」

 勇者は困ってしまった。

 そもそも自分はもう30代後半であるし、結婚など考えたこともなかったのだ。

 それなのにいきなりこんなことを言われても困るとしか言いようがない。

 そもそもセリーヌはまだ16歳なのだから早すぎるのではないだろうか?

 これから魔物と戦う前にこんなことをしていていいのだろうか?

  そんな疑問ばかりが頭に浮かんでくる。

「私じゃ不満なの?」

 聖女は悲しそうに言うと、勇者の胸に顔を埋めてきた。

 そしてすすり泣くような声が聞こえてくる……。

(うっ……)

 勇者は何も言えなくなってしまった。

 罪悪感でいっぱいになり、胸が苦しくなるのを感じた。

「違うんだ。魔物と戦う前にそんな気分には……」

「でも、私たち、死ぬかもしれないし……」

「それは……」

 確かにその通りかもしれない。

 冒険者である自分たちはいつ死ぬかわからない。

 もし明日死んだとしたら……今日が最後の夜になるかもしれない。

 そう思うと、このまま流されてしまうのも悪くないかもしれないと思ってしまう。

 だがしかし、やはり違うと思う。

「もう一回キスしてほしいの」

 聖女は少し不満そうにしながら、勇者を見つめてくる。

 その瞳には涙が浮かんでいて潤んでいた。

 そんな目で見られてしまうと、勇者はいてもたってもいられなくなる。

「わかった……キスだけなら……」

 そういうと、聖女の顔がぱあっと明るくなるのがわかった。

 彼女は嬉しそうに微笑むと目を閉じる。

 その顔はとても美しく愛らしかった。

 そして勇者はゆっくりと顔を近づけると唇を奪った。

 それは柔らかく甘い味がしたような気がしたが、緊張してしまってよくわからなかった。
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