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「だが……ふたりで対峙するのは、かなり無茶ですよ」

「でも、みんなが困っているのよ。魔物がいるなら倒さないと。勇者としてね!」

「それはそうだけれど……」

「そうでしょう?  それにあなたは強いんだから、大丈夫よ!」

 聖女はそういうと、いつものように無邪気に笑う。

 その笑顔を見ると何も言えなくなってしまうのはなぜだろう……? 

 そして聖女が、

「さあ、行きましょう!」

と言って歩き出してしまったので、仕方なくついていくことにする。

 森の奥にある洞窟にたどり着くころにはすっかり暗くなっていた。

 洞窟の入り口付近に着いたところで、セリーヌが急に立ち止まる。

 そしてくるりとこちらを振り返るのだ。

 その表情は硬く、どこか思いつめた様子だった。

 聖女はそれから静かに語り始めた。

 それはこれまで勇者と接してきた彼女の態度や言動の意味を紐解く内容だった。


☆☆☆☆☆


 聖女であるセリーヌは、王女であったのにもかかわらず、幼いころから魔物退治のために修行をしてきたという。

「政略結婚で、隣国の王太子との結婚も決められてたんだけど……結婚式の前日に逃げてきちゃった」

「え……!?」

 突然の告白に勇者は驚いてしまった。

「そうだったのか……。知らなかったな」

「ええ。だって誰にも言ってないもの……」

 そういうと彼女はくすくすと笑った。
 
 なんだかとても楽しげだ。

 しかし、その顔はすぐに曇ってしまう。

「でも……結局それから3年間、私はずっとひとりで戦ってきていたのよ」

 セリーヌはそうつぶやくと目を伏せた。

 その横顔には哀しみの色が滲んでいるように思われた。

(セリーヌ……)

 勇者はその横顔を見つめることしかできなかった。

 どんな言葉をかけていいのかわからなかった。

 けれどそれでもなんとかしなければと思う。

「それで、なぜ、俺を選んだんだ?」

「あなたは、以前、近衛騎士団にいたでしょ……その時、小さな王女を身を挺して助けたことがあるでしょう?」

「まさか……」

(セリーヌがあのアルティアの末娘……?)

 確かに、アルティア王国の小さな王女を魔物から助けたことがあった。

 まだあどけない6歳の少女だった。

 まさか彼女があの時の王女だったとは……。

「あなたは護衛で私や兄様、姉様を救ったわね? その時、肩に大けがを負って、引退したでしょ」

「ああ……」
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