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 聖女の言葉が、おっさんの胸にずんとのしかかる。

 一人の女の子として、だなんて。

 勇者にとっては恐れ多いとしか言いようがない。

 ヘタレ、と一言で言ってしまえばそれに尽きる。

 三十路のくせに、彼は今流行りのヘタレ男子なのである。

 守りたい。
 
 でも守られるだけなんて嫌だ。

 対等な関係でいたい、と願うセリーヌの気持ちもわかるが、勇者はどうしてもそう思えない。

 それが勇者としての使命感からなのか、もっと違う感情からくるものなのかは、まだ彼自身にもはっきりしていないけれど。

 それに、だ。

 相手は敬うべき聖女なのだし、年若いのだし、なにより女の子なんだから。

 そんな人に対して失礼な態度をとってはならないと思うのはまちがっていないはずだ。

 だから。

 勇者は、まだ聖女の願いを聞き入れることができないのだった。



☆☆☆☆☆☆



 だが、旅も20日目にもなると、勇者も聖女様の連日の提案に屈していた。

 すると少しずつ、二人の関係にも変化がでてくる。

 まず、聖女と勇者という組み合わせに慣れてきた。

 互いに敬語もなくして対等な立場として会話をすれば、戦闘時にも意思疎通も楽だ。

 そのことだけでもずいぶん距離が縮まった。

 そして、なによりセリーヌの表情は今までにないほど生き生きとしたものになった。

 いつも笑顔が絶えないのだ。魔物を取り逃がしても、だ。

 本当だったら、どんどん魔物を倒して金を稼ぐ必要があるのだが、セリーヌはそんな気は無いらしい。

 なかなかの金持ちらしく、プラチナカードで、食料も宿代も肩代わりしてくれる。

 おまけにそれに勇者の月給まで支給してくれるほどだ。

 聖女様は、ザコのスライムやゴブリンなどは目もむけない。

 狙っているのは、大物の魔物だけだ。

 そして、魔物さえ倒せれば大金だけでなく、名誉も手に入る。

 セリーヌのご機嫌もとれるし、彼女の笑顔を見ていると勇者の心も弾むので一石二鳥だ。

 と、まあこんな具合で、勇者は聖女セリーヌとともに旅を続けていた。

 もちろん、冒険者としての仕事も忘れない。

 ギルドからの依頼をうけては、人助けをする日々だ。

 そんなときである。

 町の近くに出現したという巨大な魔物を退治してほしいという依頼が飛び込んできた。

 魔物は、巨大な蜘蛛のような生き物だった。

 セリーヌと二人旅をはじめてからというものの、彼女はすっかり聖女としての自分を取り戻しつつあるようだ。
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