【完結】これは望んだ結婚じゃありませんでした! じゃじゃ馬侯爵令嬢の不思議な話

朝日みらい

文字の大きさ
上 下
2 / 8

(二)

しおりを挟む
 都でしか観れないオペラの観劇は、田舎暮らしのセラフィーヌには本で読んだ空想の世界だった。それが、今、現実になったのだ。

「こんな凄いところ来たの初めて。それに、特等席だし!」

 舞台がよく見える二階席で、フワフワしたドレス姿のセラフィーヌが踊るような仕草をした。

 アルベールは得意げで、

「ここは家の侯爵家の優先席なんだよ」

「へえ! 凄いわね、侯爵家って」

「我が家アルル侯爵家は、国境の防衛の要に領地があるからね。それだけの待遇も許されるんだよ」

 セラフィーヌの実家は田舎の村一帯の領地しかない男爵家である。しかも伯爵家からの命令であちこちに転居させられる身分だ。そんな境遇でヘイコラして生きてきた父親の、曲がった背中を見てきた。だから、ピンと背筋を伸ばしたアルベールの姿は、たいそう格好よくまぶしく見えた。

「アルベールってすごいわね」

(彼と結ばれたら、わたしは侯爵夫人になれるのよね。あのお城に住めるのよね)

 そう思ったセラフィーヌ、半年後にアルベールからの婚約の申し出を快く即決した。……ところまではよいものの、結婚ともなると、やはりそうでもないらしく。


✳✳✳

 そして、話は冒頭に戻って、婚約後の、お茶会の叱責場面である。
 
(まだ、終わらないのかなあ。この罵倒……)

 セラフィーヌは、堅苦しい生地で編まれた、慣れないロングドレス姿だった。茶色に染みがついたテーブルクロスを見つめて、しょぼくれている。
 
 まだ、侯爵家の広々とした庭園での格式あるお茶会の席では、両家の親と若いふたりの洗礼の儀式が行われていた。

「何て、ざまです! 我が家で代々伝わるテーブルクロスを汚して! まったく、この席が我が家と、あなた方のご家族だけで良かったですわ。もし、王家の方々がいらっしゃったら、末代までの恥です!」 
 
などと、遠吠えは収まらない。 

 セラフィーヌが流し目でアルベールを見てみる。

 彼は、他人事のように済ましてお茶をすすっている。義父は腕を組んで目をつむり、彼女の両親や姉たちも、さすがの侯爵家に恐縮しているのか、身を縮めているばかりだった。



 苦痛しかないお茶会が終わり、お城みたいな侯爵家の屋敷を馬車で帰路につきながら、

「お父様、どうして何も言ってくれないの?」

と、セラフィーヌは溜まりに溜まった胸中の想いを、向かいの席の父にぶちまけた。

 気の弱い父はだまりこくったままだった。なので、今度は並んで座る母や、両脇に座る姉たちも睨みつける。

 次女が、なだめるようにセラフィーヌの顔を見て、

「当たり前でしょう。アルル侯爵家は国王様からの信頼も厚い、由緒正しい家柄だもの。口答えなんかしたら、我が家なんて簡単にお取り潰しだし」

「ふうん。だったら、わたし、アルベールとの婚約なんて、破棄してやるわ」

「なんて、馬鹿な妹!」

 長女があきれ果てて、セラフィーヌの頭を小突いた。

「い、痛っ……」

「私たちみたいな下位の分際で、婚約破棄なんて権利ないわよ。破棄するならアルベール様にでも頼むことね」

「なら、わたし、今すぐにでも回れ右して、アルベールに破談にしていただくわ」

 プイッとセラフィーヌが顔を反らすと、

「ちょっとお待ちなさい」

 母親が話に割って入った。

「お父様の爵位が上がったのですよ。アルベール様のお父様アルル侯爵様の口利きで、子爵に昇進なさったし、領地も倍になったばかりなのに」

 セラフィーヌはハッとして、車内の面々を見渡した。

「何よ。それじゃ……わたしは、家族の犠牲になれっていうわけ?」

「……」

 車内はシーンと静まり返った。つまり、「ご名答」だったわけだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

私ってわがまま傲慢令嬢なんですか?

山科ひさき
恋愛
政略的に結ばれた婚約とはいえ、婚約者のアランとはそれなりにうまくやれていると思っていた。けれどある日、メアリはアランが自分のことを「わがままで傲慢」だと友人に話している場面に居合わせてしまう。話を聞いていると、なぜかアランはこの婚約がメアリのわがままで結ばれたものだと誤解しているようで……。

「白い結婚の終幕:冷たい約束と偽りの愛」

ゆる
恋愛
「白い結婚――それは幸福ではなく、冷たく縛られた契約だった。」 美しい名門貴族リュミエール家の娘アスカは、公爵家の若き当主レイヴンと政略結婚することになる。しかし、それは夫婦の絆など存在しない“白い結婚”だった。 夫のレイヴンは冷たく、長く屋敷を不在にし、アスカは孤独の中で公爵家の実態を知る――それは、先代から続く莫大な負債と、怪しい商会との闇契約によって破綻寸前に追い込まれた家だったのだ。 さらに、公爵家には謎めいた愛人セシリアが入り込み、家中の権力を掌握しようと暗躍している。使用人たちの不安、アーヴィング商会の差し押さえ圧力、そして消えた夫レイヴンの意図……。次々と押し寄せる困難の中、アスカはただの「飾りの夫人」として終わる人生を拒絶し、自ら未来を切り拓こうと動き始める。 政略結婚の檻の中で、彼女は周囲の陰謀に立ち向かい、少しずつ真実を掴んでいく。そして冷たく突き放していた夫レイヴンとの関係も、思わぬ形で変化していき――。 「私はもう誰の人形にもならない。自分の意志で、この家も未来も守り抜いてみせる!」 果たしてアスカは“白い結婚”という名の冷たい鎖を断ち切り、全てをざまあと思わせる大逆転を成し遂げられるのか?

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」 結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は…… 短いお話です。 新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。 4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

処理中です...