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8 ルヴァニア
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こうして和気あいあいと、馬車は宿に二泊した後、三日目に目的地である村、ルヴァニアに着いたのは昼過ぎだった。
白壁の家屋が坂道にポツポツと点在している中、一際高台にそびえる古城がある。
敷地は城壁に囲まれ、所々にツルや苔が生えているが、三階建ての白壁は明るいクリーム色で統一されて、不気味という印象を与えない。
到着を知った庭師が家内の使用人たちに、当主の帰りを知らせ、馬車が城内に入った時には、使用人たち、二十人程が一礼していた。
使用人一同を前にして、シシリーとローランは、凍りついたように佇んでいたが、意を決してローランが脇に控えた鞘に手をかけて、彼女を庇うように前に出た。
それは当然だった。皆が鬼オークだったし、都では殺されかけたのだから。
ミリアは睫毛を垂れて、二人に歩み寄り、
「安心して。この家にいるオークたちはみんな大人しいから」
「なぜ?」
不安いっぱいに訊くシシリーに、今度はフロイドが、
「毎日、一定量の血を抜いているから。抜かないと体内の血液濃度が上がって、本来の獰猛さが戻る。シシリー、君は研究しているから、落ち着けば分かるはずだ」
シシリーは、胸元を抑え息を整えると、ローランが不安そうに見守る中、ゆっくり使用人たちの前に歩み寄った。
そして、強ばった笑みを浮かべながら、スカートの裾を広げ、
「シシリー・タールです。これから皆さんにお世話になります」
と、丁寧にお辞儀をした。
オークの使用人たちも、怪物と見られてきた経験から、これほど丁寧な客人の礼節に驚きを隠せない。
それから、オークの執事がシシリーに近づくと、
「我ら一同、お越しを心から歓迎いたします」
と言うと、使用人たちは一礼した。
二階のそれぞれの客室に、シシリーとローランは案内された。
それから、一階の食堂で歓迎の食事会が開かれた。
新鮮な野菜を使ったスープや、鳥一匹を使った丸焼きが出てきた。
どれもおいしかったが、吸血鬼の三人はそういう食事には少し口にしただけで、赤いワインみたいな飲み物を飲んでいる。
シシリーは敢えて訊かないようにしていたが、ローランは違う。やはり、冒険者としての怪物について関心があるのだ。
「これは、血なんですか?」
ミリアは、眉を上げて、
「オークの血を、ブドウジュースで薄めたものよ。ワインで薄めたりもするけど、味は人間に比べたら、不味いけど……」
そして、ローランをなめ回すように見る。
「あの、何なんですか? この、ぼくを獲物みたいに
見てるけど……」
双子の姉妹は、顔を見合わせて、ニヤニヤしている。
それから、クリスタが、
「使用人たちから、留守中に野生のオークたちが、畑を荒らし回って困ってるらしいの。だから、オークを捕まえて血を抜きに行くんだけど。ローランくんも訓練がてら来ること!」
「ええっ! いきなり命令?」
ローランがうろたえていると、ミリアも、腕を組んでしきりに頷きながら、
「ローランくん、良かったわね。クリスタはなかなかの凄腕の魔物ハンターだから勉強になるわよ。もちろん、わたしもローランくんと一緒だから安心ね。ピチピチ坊や、だーいすき」
と、席を立って、ローランの背後から腕を回す。
「ううっ! やめてください。息が苦しいですって!」
すると、クリスタが少し眉をしかめて立ちあがり、
「姉さん、ずるい」と、今度はローランの匙を取り上げて、
「はーい、お口、あーんして」と、スープを飲ませようとする。
「ふたりとも近すぎるよ……」
ローランは、姉妹にがんじがらめにされて、身動きが取れない。
「シシリー、ちょっと来てくれるかな?」
姉妹に挟まれて揉みくちゃにされるローランを尻目に、フロイドは口元をナプキンで拭いて立ちあがると、シシリーに歩み寄る。
ローランを気にしているシシリーに、
「大丈夫。母と叔母は若い青年が大好きなだけで、血を吸ったりしないよ」
「……分かりました」
シシリーは差し出された手を握ると、食堂を後にした。
白壁の家屋が坂道にポツポツと点在している中、一際高台にそびえる古城がある。
敷地は城壁に囲まれ、所々にツルや苔が生えているが、三階建ての白壁は明るいクリーム色で統一されて、不気味という印象を与えない。
到着を知った庭師が家内の使用人たちに、当主の帰りを知らせ、馬車が城内に入った時には、使用人たち、二十人程が一礼していた。
使用人一同を前にして、シシリーとローランは、凍りついたように佇んでいたが、意を決してローランが脇に控えた鞘に手をかけて、彼女を庇うように前に出た。
それは当然だった。皆が鬼オークだったし、都では殺されかけたのだから。
ミリアは睫毛を垂れて、二人に歩み寄り、
「安心して。この家にいるオークたちはみんな大人しいから」
「なぜ?」
不安いっぱいに訊くシシリーに、今度はフロイドが、
「毎日、一定量の血を抜いているから。抜かないと体内の血液濃度が上がって、本来の獰猛さが戻る。シシリー、君は研究しているから、落ち着けば分かるはずだ」
シシリーは、胸元を抑え息を整えると、ローランが不安そうに見守る中、ゆっくり使用人たちの前に歩み寄った。
そして、強ばった笑みを浮かべながら、スカートの裾を広げ、
「シシリー・タールです。これから皆さんにお世話になります」
と、丁寧にお辞儀をした。
オークの使用人たちも、怪物と見られてきた経験から、これほど丁寧な客人の礼節に驚きを隠せない。
それから、オークの執事がシシリーに近づくと、
「我ら一同、お越しを心から歓迎いたします」
と言うと、使用人たちは一礼した。
二階のそれぞれの客室に、シシリーとローランは案内された。
それから、一階の食堂で歓迎の食事会が開かれた。
新鮮な野菜を使ったスープや、鳥一匹を使った丸焼きが出てきた。
どれもおいしかったが、吸血鬼の三人はそういう食事には少し口にしただけで、赤いワインみたいな飲み物を飲んでいる。
シシリーは敢えて訊かないようにしていたが、ローランは違う。やはり、冒険者としての怪物について関心があるのだ。
「これは、血なんですか?」
ミリアは、眉を上げて、
「オークの血を、ブドウジュースで薄めたものよ。ワインで薄めたりもするけど、味は人間に比べたら、不味いけど……」
そして、ローランをなめ回すように見る。
「あの、何なんですか? この、ぼくを獲物みたいに
見てるけど……」
双子の姉妹は、顔を見合わせて、ニヤニヤしている。
それから、クリスタが、
「使用人たちから、留守中に野生のオークたちが、畑を荒らし回って困ってるらしいの。だから、オークを捕まえて血を抜きに行くんだけど。ローランくんも訓練がてら来ること!」
「ええっ! いきなり命令?」
ローランがうろたえていると、ミリアも、腕を組んでしきりに頷きながら、
「ローランくん、良かったわね。クリスタはなかなかの凄腕の魔物ハンターだから勉強になるわよ。もちろん、わたしもローランくんと一緒だから安心ね。ピチピチ坊や、だーいすき」
と、席を立って、ローランの背後から腕を回す。
「ううっ! やめてください。息が苦しいですって!」
すると、クリスタが少し眉をしかめて立ちあがり、
「姉さん、ずるい」と、今度はローランの匙を取り上げて、
「はーい、お口、あーんして」と、スープを飲ませようとする。
「ふたりとも近すぎるよ……」
ローランは、姉妹にがんじがらめにされて、身動きが取れない。
「シシリー、ちょっと来てくれるかな?」
姉妹に挟まれて揉みくちゃにされるローランを尻目に、フロイドは口元をナプキンで拭いて立ちあがると、シシリーに歩み寄る。
ローランを気にしているシシリーに、
「大丈夫。母と叔母は若い青年が大好きなだけで、血を吸ったりしないよ」
「……分かりました」
シシリーは差し出された手を握ると、食堂を後にした。
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