【完結】伯爵令嬢は愛する騎士の仲を引き裂く運命に逆らいます

(14)

　オカリナはブルームに助けを求めたが、ブルームはそのとき外で教練指導をしていた。

　彼女は一人ぼっちだった。エドワーズはドアをノックしたが、反応がないので不満げに言った。

「オカリナ、私は君に謝りたいんだ。君を愛している。君にもう二度と手を上げないと誓うよ。だから、開けるんだ。私のもとに戻るんだよ」

　エドワーズはオカリナに甘い言葉を投げかけて、ドアを開けさせようとしていた。だが、オカリナは彼の嘘に気づいて、ドアを開けなかった。

　エドワーズはイライラして、ドアを蹴り破った。

　オカリナは、恐怖で声が出なかった。

　そのとき、ブルームが部下からの連絡をきいて駆けつけてきた。

　ブルームはエドワーズの行為に憤りを感じて、彼に向かって叫んだ。

「エドワーズ様、何をしているんです。オカリナに手を出さないでください。彼女はもう君のものじゃない。彼女は自由だ。彼女は私が守る」

　ブルームはエドワーズを押しのけて、オカリナを抱き寄せた。

「大丈夫か。怖がらないで。私がいる」

　オカリナはブルームの温もりに安心して涙を流した。

　ブルームは彼女をかばいながら、はっきり言った。

「エドワーズ様、オカリナはあなたとはともに暮らしたくないと言っている。俺は彼女を守って、ともに生きていくつもりです」

「お前はただの騎士だろ。わたしの部下でもある。令嬢と結婚できるわけがないだろ。私は宰相だ。逆らうなら、騎士団への反逆罪やオカリナへの誘拐罪をでっち上げてやるから覚悟しておけ」

　今度はオカリナが、ブルームの前に立った。肩は震えていたが、目は凜としてエドワーズを見据えていた。

「ブルーム様はわるくないのよ。全部わたしが悪かったわ。ここを離れる準備をする。明日には屋敷に戻ります」

「よし、分かった。明日に迎えにいく。だが、もし逃げたりしたら、兵士を差し向けるから、心するがいい」

　オカリナは、エドワーズが宿舎を後にするのを確認した。

　それから、エドワーズに従うふりをしたこと、ブルームはここから逃げるように伝えた。

「エドワーズは執念深い男よ。許したふりをして、後であなたにひどいことをするに違いない。だから、お願い。この国から出て。わたしは平気だから」

「オカリナ、どこまで君は俺にやさしいんだ。こんなにエドワーズに恐怖で震えているじゃないか。俺は君をそのままにしておけないよ。誘拐罪で死んだ方がましなくらいだ」

「ブルーム……」

　ブルームはオカリナを救うために、隣国への逃亡を決意した。

　彼はオカリナに、

「私たちはここにいられない。エドワーズは私たちを見つけ出して、殺す。私たちは隣国へ行こう。そこなら安全だ」
と彼女を説得した。

「でも、どうやって行くの？国境は厳重に警備されているわ」
と尋ねた。

「心配しないで。私は騎士団の中に信頼できる仲間がいる。彼らは私たちを手助けしてくれるから」
と答えた。

　ブルームは夜になるのを待って、オカリナと一緒に宿舎から忍び出した。

　彼はオカリナを馬に乗せて、騎士団の仲間と合流した。

　彼らはブルームとオカリナに、

「ブルーム隊長、オカリナ様、早く行ってください。国境まであと少しです。私たちは後ろを囮になって、時間を稼ぎます」

と言って、別れを告げた。

　ブルームは仲間に
「ありがとう。必ず生きて帰る」
と言って、オカリナと一緒に馬を走らせた。

　ブルームとオカリナは国境の検問所に近づいた。　　　　　　　

　彼らは兵士たちの目をかいくぐって、隙間から抜けようとした。

　しかし、そのとき、エドワーズが現れた。

　エドワーズはブルームとオカリナを見つけて、激怒した。

「ブルーム、お前は何をしているんだ。オカリナを連れてどこへ行くつもりだ。お前は私の部下だ。お前は私の命令に従え」
と叫んだ。

　エドワーズは従えた兵士たちに、

「あの二人を捕まえろ。逃がすな」と命じた。