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翌日、エドワーズは使用人に命じて、オカリナが自分が許可しない限り、外出も手紙も出させないように告げた。
もちろんオカリナは、そんなエドワーズの勝手な方針に耐えられなかった。
すぐに外出の許可を願い出た。
彼女は街に買い物に行きたいと頼んだものの、エドワーズは拒否した。
「外出する必要がないだろう。わたしが必要なものは全て用意しているんだから」
と彼は言った。
「私はただ少しの自由が欲しいだけよ。たしかにあなたのおかげで何も不自由してはいない。でもね、私は自分の足で歩きたいの」
「私の婚約者なら、私の言うことを聞くべきだね」
オカリナは、エドワーズの態度に沸々と腹が立ってきた。
「私はあなたのものじゃないし、従う義務もないわ!」
と彼女は叫んでいた。
「そんな口をきくな。私は愛し、幸せにする義務があるから、そうしているだけなんだ」
「支配されたくないって言っているの!」
「なんだ、その口の利き方はなんだ!」
エドワーズはオカリナに手を上げた。
「無礼な女だ。きみを養っている私に感謝するべきなんだ。私に従え!」
と彼女の頬を思い切り引っ叩いた。
オカリナはエドワーズにショックを受けて、床に膝をつき、晴れ上がった頬に手を当てがった。
「ちょっと……どうしてそんなことをするの? 私を傷つけるおつもり?」
あてがった指の隙間から、ぽろぽろと涙がしみ出てきた。
「すなかった。感情的になりすぎた。でもね、君が私を怒らせるせいなんだよ。いずれ、私の想いが通じるだろう」
エドワーズはオカリナにそう言って、彼女を屋敷の一室に閉じ込めてしまった。
「エドワーズ、開けて! 誰か、開けてください!」
オカリナはドアを叩いて、助けを求めたが、誰も来なかった。
それ以降、毎日、エドワーズの暴力に怯えることになった。
オカリナは、彼に懸命にお願いした。
「なぜ、わたしを自由にしてくださらないの。解放して!」
「だめだね。君は気まぐれだ。他の男と浮気するかもしれない。あの孤児院での騎士と逃げようと考えているんだろう?」
「そんなことするわけない。それに私はそもそも自由なの」
「いいか、君はぼくの小鳥なんだ。ぼくの籠から一歩も外に出るんじゃない」
「ひどいわ。あんまりよ。わたしはこの屋敷から出ます! あなたとは婚約を解消します!」
「聞き分けの悪い小鳥が!」
彼はオカリナの頬に張り手をして、彼女を壁に押し付けた。
「二度とこんな口を利くんじゃない。もし、次にそんなことをしてみろ。もっと怖い目にあわせてやるからな」
そうやって彼に少しでも口答えをすると、手や足を引っ張ったり、平手打ちしたり、髪の毛を引っ張ったりした。
オカリナはエドワーズの乱暴に耐えながらも抗議し、涙を流し続けた。
「いくらひどいことをしても、わたし、屈しないわ。早く、わたしを自由にしてください!」
「しつこいな。きみは私のものなんだ。私以外の誰にも話してもいけないし、触れてもいけない。お前は俺の言うことを聞くだけでいい。そうしないと、後悔するはめになる」
そんなオカリナに手を差し伸べたのは、監視役の女中の一人だった。
彼女はオカリナに同情して、食事や水や傷薬をこっそりと届けていた。
オカリナに優しく話しかけて、彼女の心を少しでも軽くしようとしてくれた。
彼女はオカリナに、
「あなたは美しくて優しい方。あなたはこんな目に遭うべきではないです。自由になるべきですわ」
と言って、彼女を励ました。
「私はオカリナ様を助けます。ここから連れ出すご協力をします」
とまで約束してくれた。
「ではお願い。紙とペンを持ってきて……」
手紙を出したりしたら、罰せられるに違いない。それを覚悟して女中は急いで紙とペンを持参してくれた。
「本当にありがとう!」
オカリナはブルームへの手紙をしたためた。彼女は次のように書いた。
『ブルーム様へ
私は今、エドワーズ様の屋敷に閉じ込められています。あなたに会いたくてたまりません。自分の地位と名誉ばかりを考えている両親は、きっと助けにはなりません。私はあなたしか頼る方はいません。
エドワーズ様は私を自分のものだと思っています。彼は暴力を振るったり、罵ったりします。私に自分だけを愛するように強要しているのです。
私を助けてください。一緒に逃げたい。あなたと一緒に生きたいのです。
どうか、私を暗闇からお救いください。
あなたを愛するオカリナより』
オカリナは手紙に封印をして、女中に渡した。
「これをブルーム様に届けて。彼は騎士団本部にいますから」
と彼女は言った。
「わかりました、オカリナ様」
と女中は言った。
「急いでまいります」
オカリナは女中に感謝した。
「ありがとう、あなたは私の命の恩人よ」
「光栄です、オカリナ様」
と女中は言った。
オカリナは、ブルームに手紙が届くのを祈った。
もちろんオカリナは、そんなエドワーズの勝手な方針に耐えられなかった。
すぐに外出の許可を願い出た。
彼女は街に買い物に行きたいと頼んだものの、エドワーズは拒否した。
「外出する必要がないだろう。わたしが必要なものは全て用意しているんだから」
と彼は言った。
「私はただ少しの自由が欲しいだけよ。たしかにあなたのおかげで何も不自由してはいない。でもね、私は自分の足で歩きたいの」
「私の婚約者なら、私の言うことを聞くべきだね」
オカリナは、エドワーズの態度に沸々と腹が立ってきた。
「私はあなたのものじゃないし、従う義務もないわ!」
と彼女は叫んでいた。
「そんな口をきくな。私は愛し、幸せにする義務があるから、そうしているだけなんだ」
「支配されたくないって言っているの!」
「なんだ、その口の利き方はなんだ!」
エドワーズはオカリナに手を上げた。
「無礼な女だ。きみを養っている私に感謝するべきなんだ。私に従え!」
と彼女の頬を思い切り引っ叩いた。
オカリナはエドワーズにショックを受けて、床に膝をつき、晴れ上がった頬に手を当てがった。
「ちょっと……どうしてそんなことをするの? 私を傷つけるおつもり?」
あてがった指の隙間から、ぽろぽろと涙がしみ出てきた。
「すなかった。感情的になりすぎた。でもね、君が私を怒らせるせいなんだよ。いずれ、私の想いが通じるだろう」
エドワーズはオカリナにそう言って、彼女を屋敷の一室に閉じ込めてしまった。
「エドワーズ、開けて! 誰か、開けてください!」
オカリナはドアを叩いて、助けを求めたが、誰も来なかった。
それ以降、毎日、エドワーズの暴力に怯えることになった。
オカリナは、彼に懸命にお願いした。
「なぜ、わたしを自由にしてくださらないの。解放して!」
「だめだね。君は気まぐれだ。他の男と浮気するかもしれない。あの孤児院での騎士と逃げようと考えているんだろう?」
「そんなことするわけない。それに私はそもそも自由なの」
「いいか、君はぼくの小鳥なんだ。ぼくの籠から一歩も外に出るんじゃない」
「ひどいわ。あんまりよ。わたしはこの屋敷から出ます! あなたとは婚約を解消します!」
「聞き分けの悪い小鳥が!」
彼はオカリナの頬に張り手をして、彼女を壁に押し付けた。
「二度とこんな口を利くんじゃない。もし、次にそんなことをしてみろ。もっと怖い目にあわせてやるからな」
そうやって彼に少しでも口答えをすると、手や足を引っ張ったり、平手打ちしたり、髪の毛を引っ張ったりした。
オカリナはエドワーズの乱暴に耐えながらも抗議し、涙を流し続けた。
「いくらひどいことをしても、わたし、屈しないわ。早く、わたしを自由にしてください!」
「しつこいな。きみは私のものなんだ。私以外の誰にも話してもいけないし、触れてもいけない。お前は俺の言うことを聞くだけでいい。そうしないと、後悔するはめになる」
そんなオカリナに手を差し伸べたのは、監視役の女中の一人だった。
彼女はオカリナに同情して、食事や水や傷薬をこっそりと届けていた。
オカリナに優しく話しかけて、彼女の心を少しでも軽くしようとしてくれた。
彼女はオカリナに、
「あなたは美しくて優しい方。あなたはこんな目に遭うべきではないです。自由になるべきですわ」
と言って、彼女を励ました。
「私はオカリナ様を助けます。ここから連れ出すご協力をします」
とまで約束してくれた。
「ではお願い。紙とペンを持ってきて……」
手紙を出したりしたら、罰せられるに違いない。それを覚悟して女中は急いで紙とペンを持参してくれた。
「本当にありがとう!」
オカリナはブルームへの手紙をしたためた。彼女は次のように書いた。
『ブルーム様へ
私は今、エドワーズ様の屋敷に閉じ込められています。あなたに会いたくてたまりません。自分の地位と名誉ばかりを考えている両親は、きっと助けにはなりません。私はあなたしか頼る方はいません。
エドワーズ様は私を自分のものだと思っています。彼は暴力を振るったり、罵ったりします。私に自分だけを愛するように強要しているのです。
私を助けてください。一緒に逃げたい。あなたと一緒に生きたいのです。
どうか、私を暗闇からお救いください。
あなたを愛するオカリナより』
オカリナは手紙に封印をして、女中に渡した。
「これをブルーム様に届けて。彼は騎士団本部にいますから」
と彼女は言った。
「わかりました、オカリナ様」
と女中は言った。
「急いでまいります」
オカリナは女中に感謝した。
「ありがとう、あなたは私の命の恩人よ」
「光栄です、オカリナ様」
と女中は言った。
オカリナは、ブルームに手紙が届くのを祈った。
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