春の風のシノリ

12

　シノリは、パチンと指をならして、

「ガンくんたちもおねがーい」

と、大声をあげる。すると今度はガンさん一家がやってきて、ボートを後ろで押してくれる。

　横でマーちゃんがおよぎながら、顔を出して「ゲロゲロー」と丸いひとみをクリクリさせる。向こうの岩で、ガブくんが長い首を振りながら、首をヒクヒクさせて、おうえんしてくれる。あたしは、何だかウキウキしてきた。すごく楽しい。

　あっという間に、池の端までやってきた。華子は目を丸くして、あたしを見ている。それから、

「ふん、やるじゃないの。こんどは、わたしよ」

と、オールをつかんでこぎはじめる。

　でも、波におされて一向に前に進まない。すると今度は、ボートはぐるぐる回転しだす。耳の先まで真っ赤な顔をしている華子のとなりで、シノリはクスクスわらっている。

　それから水の下を指さしたので、あたしは下をのぞいて、びっくりした。なんと、カメのガブくんとたくさんの魚たちが下でおみこしみたいにうずをまいておよいでいた。

「な、なんでよ。もう、バカ、バッカなボート」

　華子は、オールをもつ手を投げだして、頭をかかえた。

　すると、今度はぴょんとマーちゃんがとびはねて、華子の顔面にぺちゃりとだきついた。

「ブチュ」
「ひ、ひえええ！」