ブラックホールをふき飛ばせ

11

　ママは、あたしのわきを抱えながらリビングにつれていってくれた。ヤカンでお湯をわかして、インスタントコーヒーを入れてくれる。

　でも、ただただ、にがい。なんだか、またパパのことを思い出してしまう。だって、パパのコーヒーは味も香りも最高だったんだから。

　パパはよく、手ひきのコーヒーミルに豆を入れてごりごり回した。粉になったら、すぐサイホンに入れて、アツアツのお湯をそっとそっと入れる。

　ミルクを注いでコハク色になったコーヒーは、インスタントなんて比べものにならない。苦みに深い甘みとこうばしい香りが口いっぱいにひろがる。思わず笑顔になっちゃうんだ。

　パパは、いつも向かいの席で、新聞を広げながら、そのコーヒーを飲んでいた。ママが寝坊だから、パパは朝ごはんを作ってくれた。几帳面だから、トーストにジャムをきんとうに、ていねいにぬってくれた。天然のママとは、ぜんぜんタイプがちがっていた。

　ぼんやり、そんなことを考えながら、トースターに食パンを入れた。そうしたら、ママがなれないスーツに袖を通しながら、リビングに来た。そそくさと学校とクリニックに電話を入れる。

　クリニックは朝九時からだけど、先生は「すぐ来てください」と言ってくれた。