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 すると、一人の女性が会場に入ってきた。

──ソフィアだ。

 彼女は美しい微笑を浮かべて口を開く。

「ごきげんよう、みなさん。今日はとても良い日ですわね」

 彼女の登場に会場中がざわめく。

 アランは青ざめた顔で彼女を見つめた。

「ソフィア……? どういうこだ……?」

 アランの問いかけに、ソフィアは冷たい笑みで答えた。

「あなたはご存知ありませんでしたか? あなたに一方的に婚約を破棄されて、どんなにつらい想いをしたか!」

 アランの表情が凍りつく。

「それからというもの、あなたの家から嫌がらせを受け続けましたわ。料理に毒を盛られたり、暗殺者を差し向けられたこともありました」

 ソフィアは、静かな口調でそう言うと、アランに向かって手を差し出した。

「あなたは最低な男ですわ」

 ソフィアの言葉に会場中が静まり返った。

 アランは顔を真っ赤にすると、怒りの形相で叫んだ。

「この恩知らずめ! おまえが公爵家の爵位目当てなのは知っているんだぞ!」

 彼は叫ぶと、ソフィアに摑みかかった。

「きゃあ!」

 ソフィアは悲鳴を上げると、その場に倒れ込んだ。

 アナリスは慌てて駆け寄ると、ソフィアを抱き起こす。

「大丈夫ですか!?」

「ええ……ありがとう」

 ソフィアは安堵のため息をつくと、微笑んだ。

 アナリスも微笑み返すと、アランに目を向けた。

 彼は屈辱で顔を歪めながらも、こちらを睨みつけている。

──そんな目で見ても怖くはないけれど。

「アラン・ベルナール公爵!  これ以上の騒ぎを起こすというのであれば、あなたの名誉を損なうことになるぞ!」

 ラファエルは大きな声で叫ぶと、会場中を見回した。

 アランは悔しそうな顔をすると、

「くそっ……」

と悪態をついた。

 そして、逃げるように去っていく。

 その姿があまりにも情けなく見えて、アナリスは思わず笑ってしまった。

「なんと無礼な男だ」

 ラファエルは顔をしかめると、呆れたように言った。

 他の貴族たちも同意するように頷いている。
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