【完結】作家の伯爵令嬢は婚約破棄をされたので、愛読者の第三王太子と偽装結婚して執筆活動に邁進します！

(52)

　翌日も、アナリスは朝早くから王宮へとやって来た。

　昨日のことを思い出し、自然と口元が緩んでしまう。

「おはよう、アナリス」

　ラファエルはアナリスの姿を見つけると、笑顔で挨拶してきた。

　そして、当たり前のように手を差し出してくる。

　アナリスは、ドキドキしながらその手を取った。

──すると、ラファエルは彼女の手を引いて歩き始めた。

「ラフィー様……」

　アナリスは、思わず彼の名前を呼んだ。

　胸が高鳴るのを感じる。

──だが、今は恥ずかしさよりも嬉しさの方が勝っていた。

「なんだい？」

　ラファエルは、少し照れた様子で答える。

「いえ……ただ呼んでみただけよ！」

　アナリスは、悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。

　すると、ラファエルは優しい眼差しを向けてくる。

「きみは本当に可愛い人だな！」

　そう言って、彼はアナリスの手を握った手に力を込めた。

　アナリスはその温もりに安心感を覚え、ぎゅっと握り返すのだった。

「今日は、ちょっと郊外に出かけようかと思っている。メイリーン・アダムス嬢の過去めぐりだよ」

　ラファエルはアナリスの手を握ったまま言った。

　アナリスは驚きに目を見開く。

「わたし……メイリーン・アダムスの？」

　アナリスが尋ねると、ラファエルは少し困ったような表情を浮かべた。

「そうだね……きみが本来のメイリーン・アダムスとして生きてきた足跡みたいなものを知っておけば、もっと堂々とこの国の令嬢らしく過ごすことができるって思って。どうだろう？　私の本当の妻になってくれるなら」

　ラファエルはそう言うと、照れくさそうに頭を掻いた。

　その様子を見て、アナリスは思わず顔を赤らめてしまった。

（もう……どうしてこの人はこんなにストレートなのかしら）

　アナリスは、自分の心が急速に彼に惹かれていくのを感じていた。

　彼と一緒にいると、本当の自分でいられるような気がするのだ。

「はい……ぜひ行きたいわ！」

　アナリスは笑顔で答えた。

　ラファエルは嬉しそうな表情を浮かべると、彼女の手を引いて歩き出したのだった──。