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 二人は手を取り合ってダンスホールへと戻った。

──ラファエルはリードが上手く、とても踊りやすかった。

 一曲目が終わると、ラファエルはアナリスをソファに座らせた。

 そして、飲み物の入ったグラスを差し出すと、自分も隣に腰掛けた。

「ありがとう」

 アナリスは礼を言って受け取ると、一口飲む。

──すると、爽やかな柑橘系の風味が口の中に広がった。

「おいしい……」

 アナリスは思わず呟いた。

「これは国王領の果樹園で採れた果実から作ったものなんだ」

 ラファエルが説明する。

「そうなんですか……今度、行ってみたいです」

 アナリスは笑顔で言った。

 すると、ラファエルは驚いた表情を浮かべる。

「それは光栄だね。水入らずで、もぎたてなんて」

「え……?」

(どうして?)

 アナリスは首を傾げたが、すぐに理由がわかり、耳まで真っ赤になった。

──それは、ラファエルと二人きりでいたいという意味にも取れるからだ。

「あ、あのっ……そういう意味ではなくて……」

 アナリスは、しどろもどろになりながら言った。

「わかっているよ」

 ラファエルは、悪戯っぽい笑みを浮かべる。

(もう……いじわるなんだから!)

 アナリスは心の中で呟くと、頬を膨らませた。

──だが、嫌な気分にはならなかった。

 むしろ、不思議と心が温かくなってくるような気がした。

 その後、しばらくの間会話が途切れてしまったが、心地良い沈黙だった。

 アナリスはこの時間がずっと続けばいいと思った。

 やがて、ラファエルが時計を確認する仕草を見せたので、アナリスは思わず落胆してしまう。

──もうそろそろお開きの時間だと感じたからだ。

「アナリス……」

 不意にラファエルが口を開く。

「はい?」 

 アナリスは、不思議そうな表情を浮かべて顔を上げた。

「今日、きみを王宮に呼んだのは……その……つまり」

 ラファエルは珍しく言い淀んでいるようだった。

 アナリスは不思議に思い、じっと彼の顔を見つめる。

「きみに……伝えたいことがある」

 ラファエルは、真剣な表情でアナリスを見つめた。

 その眼差しに思わずドキッとする。

──アナリスは、胸を高鳴らせながら彼の言葉を待った。

「わたしはきみに夢中だ。だから、偽装結婚などではなく、本当の妃になってくれ」
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