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 アナリスは心の中で自問したが、答えは出なかった。

 ラファエルと会ってから、自分の人生が百八十度変わったような気がする。

「ラフィー様が、わたしの本のファンで婚約してくださったことはわかっています。これが偽りだっていうことも…。でも、やっぱり……知りたいの。なぜ、ここまでやさしくしてくださるの……?」

 アナリスは、ずっと気になっていたことを尋ねてみた。

 すると、ラファエルは少し考え込んだ後で答えた。

「それは……現実のきみの方が、小説より魅力的だからだよ」

 ラファエルはそう言うと、照れくさそうに微笑んだ。

 その笑顔があまりに可愛らしくて、アナリスは思わず頬を染めた。

(ああ……やっぱりラフィー様って素敵だわ)

 アナリスは、心の中で呟いた。

 彼と一緒にいるだけで、心が満たされていくような気がする。

「ねえ、ラフィー様……」

 アナリスは勇気を出して、ラフィー様の腕にしがみついた。

 そして、上目遣いで彼を見つめる。

 すると、ラファエルはそっとアナリスに口づけをした。

 それはほんの短いキスだったが、それでも十分に気持ちが伝わってきた。

(わたしは、あなたの婚約者になれたらいいのに。でも、わたしは他国の伯爵家のアナリス・キャンベル。特別、爵位が高いわけじゃない。それにラフィー様は、きっと空想のヒロインを私と重ねているだけよ……『『メイリーン嬢の花咲く夕べ』のメイリーン・アダムスをね……)

 それでも……と、アナリスは思い返す。

 もし、半年のわずかな時間でも、濃密な時間を過ごして、悔いのない楽しい時間を過ごしたい……。

「……抱いて、もらえますか?」

 アナリスは、囁くように言った。

 ラフィー様は驚いた様子でこちらを見つめていたが、やがて微笑みを浮かべて頷いた。

「ああ……もちろんだよ」

 ラファエルはそう言うと、アナリスを強く抱きしめてくれた。

 そして、そのまま口づけを交わした──。

 唇が触れ合うだけの軽いものだったが、それでも十分に心が通じ合ったような気がした。
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