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 アナリスは心の中で呟いた。

 まさか、ラファエルと二人きりになるだなんて思いもしなかった。

 せっかく二人きりになれたのだがら、何か話さなければと思う。

 でも、何を話せばよいのかわからない。

「アナリス」

 不意に名前を呼ばれて顔を上げると、ラファエルと目が合った。

 彼の瞳に見つめられていると、心が蕩けていくような気がする。

──それほどまでに魅力的な瞳だった。

(ああ……わたしったら何を考えているの……?!)

 アナリスは頭を振って雑念を払いのけると、彼に向かって微笑んでみせた。

「ありがとうございます、殿下」

 すると、ラファエル王太子殿下は困ったような表情を浮かべた。

「その『殿下』というのはやめてくれないかな?」

 ラファエルは、苦笑いを浮かべる。

(あ……そうか……)

 アナリスは、少し考えた後で言った。

「では、何とお呼びすればよいでしょうか……?」

 恐る恐る尋ねると、ラファエルは少し考えてから答えてくれた。

「そうだなあ……『ラフィー』はどう? 親しい友人はそう呼んでくれるんだ」

 ラファエル王太子殿下──いや、ラフィー様はそう言って悪戯っぽく笑った。

 ラフィーなんて、なんて可愛い名前!

 その表情もとても可愛らしくて魅力的だった。

(ああ……やっぱり素敵だわ)

 アナリスは思わず見惚れてしまった。

 こんなに素敵な男性がこの世に存在しているなんて、信じられないほどだ。

 きっと、世界中の女性が彼の虜になってしまうかも。

──そう考えると少し妬けてしまう。

 だが、それと同時に誇らしくもあった。

 なぜなら、仮だとしても自分はラファエルの婚約者なのだから。

──そう思うと、自然と笑みが溢れてくるのだった。

「わかりましたわ、ラフィー様」

 アナリスは頷いてみせてから、頬けて熱くなった頬に両手をあてがった。

「わたし、まるで夢のような時間を過ごしました。感謝してもしたりないくらい……夢か現実なのか……とにかく胸がドキドキしてしまって……幸せです」

「それはよかった」

 ラファエルは優しく微笑むと、手を差し出してきた。

 その手を握り返すと、なんだか少し照れ臭い気持ちになった。

(ああ……わたしったらどうしちゃったのかしら……?)
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