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アナリスは、絶句してしまった。
いくらなんでも早すぎるだろうと思う。
確かに、クリストファーがアナリスに会いに来た理由──。
原稿の受け取りだけでなく、これからの私の展望に話が及ぶことは予想できていた。それは、物語の展開にもつながるからでもある。
だが、いくらなんでもこんなに早く、王宮に移るとは思わなかった。
「ま……待って……」
アナリスは、震える声で言った。
「まだ……心の準備ができておりませんし……王妃教育などもほとんどできていませんわ……」
(そんな勝手に、決めてしまっていいのだろうか?)
すると、アルは笑顔で首を横に振る。
「大丈夫です。もう私の方で周知はできています。あなたは、教会で育った、王妃教育などには疎いメイリーン・アダムスとして振舞っておられればそれでよいのです。つまり、あなたのそのままで結構です」
(なんですって?!)
アナリスは驚いてしまった。
本当に、それでいいのだろうか?
「そろそろ、ラファエル王太子の使者が来られる頃ですかね」
アルが上着から金時計を取り出して、時間を確認している。
(ちょっと?!)
アナリスは慌てて口を挟もうとしたら、なんと使者ではなく、ラファエル王太子殿下本人がやってきた。
「やあ、おはよう、アナリス。いや、メイリーン・アダムスだったね」
(ええ……?!)
呆気に取られているアナリスに、構わず彼は近づいた。
そしてその手をそっと握る。
「使いの秘書官に任せるより、自分で来た方が手っ取り早いと思ってね。さっそく、婚約指輪を取りに行こうか!」
(え? ええぇぇ?!)
アナリスは、パニックに陥ってしまった。
まさか、わざわざ王様への挨拶よりも先に、婚約指輪を取りに行くと言われるとは思わなかった。
しかも、今から……。
(これは一体どういう……?!)
頭の中が疑問符でいっぱいになったが、そんなことを考える暇はない。
ラファエルに、手を取られてしまう。
そしてそのまま王宮の奥へ連れて行かれそうになったので、思わず声を上げてしまった。
「おっ、殿下、お待ちくださいっ!」
すると、彼はぴたりと足を止めてこちらを見た。
「あら、どうしたんだい?」
「あの……婚約指輪をご用意していただけるのは嬉しいのですが……」
(できれば心の準備が欲しい)
だが、彼は首を傾げると、首を傾げた。
「大丈夫。なにも心配ないから!」
(ええぇぇ?! 心配ありすぎですよっ!)
いくらなんでも早すぎるだろうと思う。
確かに、クリストファーがアナリスに会いに来た理由──。
原稿の受け取りだけでなく、これからの私の展望に話が及ぶことは予想できていた。それは、物語の展開にもつながるからでもある。
だが、いくらなんでもこんなに早く、王宮に移るとは思わなかった。
「ま……待って……」
アナリスは、震える声で言った。
「まだ……心の準備ができておりませんし……王妃教育などもほとんどできていませんわ……」
(そんな勝手に、決めてしまっていいのだろうか?)
すると、アルは笑顔で首を横に振る。
「大丈夫です。もう私の方で周知はできています。あなたは、教会で育った、王妃教育などには疎いメイリーン・アダムスとして振舞っておられればそれでよいのです。つまり、あなたのそのままで結構です」
(なんですって?!)
アナリスは驚いてしまった。
本当に、それでいいのだろうか?
「そろそろ、ラファエル王太子の使者が来られる頃ですかね」
アルが上着から金時計を取り出して、時間を確認している。
(ちょっと?!)
アナリスは慌てて口を挟もうとしたら、なんと使者ではなく、ラファエル王太子殿下本人がやってきた。
「やあ、おはよう、アナリス。いや、メイリーン・アダムスだったね」
(ええ……?!)
呆気に取られているアナリスに、構わず彼は近づいた。
そしてその手をそっと握る。
「使いの秘書官に任せるより、自分で来た方が手っ取り早いと思ってね。さっそく、婚約指輪を取りに行こうか!」
(え? ええぇぇ?!)
アナリスは、パニックに陥ってしまった。
まさか、わざわざ王様への挨拶よりも先に、婚約指輪を取りに行くと言われるとは思わなかった。
しかも、今から……。
(これは一体どういう……?!)
頭の中が疑問符でいっぱいになったが、そんなことを考える暇はない。
ラファエルに、手を取られてしまう。
そしてそのまま王宮の奥へ連れて行かれそうになったので、思わず声を上げてしまった。
「おっ、殿下、お待ちくださいっ!」
すると、彼はぴたりと足を止めてこちらを見た。
「あら、どうしたんだい?」
「あの……婚約指輪をご用意していただけるのは嬉しいのですが……」
(できれば心の準備が欲しい)
だが、彼は首を傾げると、首を傾げた。
「大丈夫。なにも心配ないから!」
(ええぇぇ?! 心配ありすぎですよっ!)
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