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『おはよう、アナリス。よく眠れたかい? 君の寝顔は、すごく可愛かったよ。あんなに可愛いあなたと仮初めでも結婚できるなんて、夢のようだ。今日は、王宮に戻らないといけないから帰るけど、また君に会えるのを楽しみにしているよ』
(殿下……)
アナリスは少し照れてしまったが、同時に不安になった。
やはり偽装結婚は偽装結婚なのだ──と改めて実感する。
(でも、このくらいの方がわたしの身の丈に合ってるわ)
アナリスは、自分に言い聞かせるようにそう思った。
(このまま偽装結婚した演技なんだから。いずれ、おさらばするの。それが、一番いい。そうなるの──)
✴✴✴
それから一週間が経ったある日のこと──。
アナリスはアルと共に、王宮のエントランスへやってきた。ラファエル王太子殿下の御両親である国王と王妃、さらにご兄弟の王太子たちに婚約の挨拶をしに来たのだ。
そこで、ある人物に引き合わされることになる。
「アナリスさん! お元気そうで何よりです!」
クリストファーは、嬉しそうに言った。
「どうですか? この国での生活は?」
「よくしていただいております!」
(本当は、戸惑いの連続だけどね……)
そう思いながらも、笑顔で答える。
すると、クリストファーは続けた。
「実は今日来てもらったのは、他でもありません。原稿の進み具体が知りたくてですね」
「それなら、すこぶる順調ですわ!」
アナリスは、力強く頷いた。
デイラーン公爵邸では、執筆に集中できるような環境が揃っていて、また、生活全般についても世話係が色々と気を遣ってくれていた。
まさに至れり尽くせりである。
「それはよかったです! 後ほど、公爵邸に行き、書き上げたホヤホヤの原稿を受けとりにまいります」
クリストファーは破顔した。
「ところで、これからさっそく、王宮での生活へと移られるわけですよね!」
「え?」
アナリスは戸惑った。
今日はあくまで、ラファエル王太子殿下のご家族に、婚約の報告に伺うだけであると聞いている。
まさか、このまま王宮に移るとは。
聞いていない!
「あの……それはどういう……?」
「言葉通りですよ」
アルは、にっこり満面の笑みを浮かべて言った。
「あなたが婚約してから一週間、私が王妃様にも報告したところ大変お喜びになったようでしてね。先ほど、侍従長から是非とも早く、殿下のおられる王宮へ移ってほしいとの要望があったのですよ」
(なっ?!)
(殿下……)
アナリスは少し照れてしまったが、同時に不安になった。
やはり偽装結婚は偽装結婚なのだ──と改めて実感する。
(でも、このくらいの方がわたしの身の丈に合ってるわ)
アナリスは、自分に言い聞かせるようにそう思った。
(このまま偽装結婚した演技なんだから。いずれ、おさらばするの。それが、一番いい。そうなるの──)
✴✴✴
それから一週間が経ったある日のこと──。
アナリスはアルと共に、王宮のエントランスへやってきた。ラファエル王太子殿下の御両親である国王と王妃、さらにご兄弟の王太子たちに婚約の挨拶をしに来たのだ。
そこで、ある人物に引き合わされることになる。
「アナリスさん! お元気そうで何よりです!」
クリストファーは、嬉しそうに言った。
「どうですか? この国での生活は?」
「よくしていただいております!」
(本当は、戸惑いの連続だけどね……)
そう思いながらも、笑顔で答える。
すると、クリストファーは続けた。
「実は今日来てもらったのは、他でもありません。原稿の進み具体が知りたくてですね」
「それなら、すこぶる順調ですわ!」
アナリスは、力強く頷いた。
デイラーン公爵邸では、執筆に集中できるような環境が揃っていて、また、生活全般についても世話係が色々と気を遣ってくれていた。
まさに至れり尽くせりである。
「それはよかったです! 後ほど、公爵邸に行き、書き上げたホヤホヤの原稿を受けとりにまいります」
クリストファーは破顔した。
「ところで、これからさっそく、王宮での生活へと移られるわけですよね!」
「え?」
アナリスは戸惑った。
今日はあくまで、ラファエル王太子殿下のご家族に、婚約の報告に伺うだけであると聞いている。
まさか、このまま王宮に移るとは。
聞いていない!
「あの……それはどういう……?」
「言葉通りですよ」
アルは、にっこり満面の笑みを浮かべて言った。
「あなたが婚約してから一週間、私が王妃様にも報告したところ大変お喜びになったようでしてね。先ほど、侍従長から是非とも早く、殿下のおられる王宮へ移ってほしいとの要望があったのですよ」
(なっ?!)
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