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(王太子妃ルート……書くしかない!)

 翌朝、アナリスは起床してすぐに小説を書き始めた。

 ヒロインのメイリーンは元々平民だったが、ある子爵との出会いをきっかけに養子になり、貴族の世界へ足を踏み入れていくことになる。

 そこで出会った公爵家の令息と婚約するが、彼は男爵令嬢と恋に落ち、婚約破棄されてしまう。

 この物語が人気なのは、メイリーンの逆境を乗り越えていく前向きな姿勢と、自分自身の力で運命を切り開いていく姿が読者の心を打つからだ。

 アナリスは、昨晩にあった自分自身の経験をヒロインに重ね合わせていった。



☆☆☆



『なぜ……?』

 メイリーンは、呆然としていた。目の前の光景を、信じることができなかった。

 そこは、公爵から婚約破棄を言い渡されたパーティ会場だった。彼女は今、大勢の人々が注目する中で断罪されている。

『君との婚約は破棄させてもらう』

『そんな……』

 メイリーンは絶望感に打ちひしがれながらも、公爵に問いかける。

『理由をお聞かせください』

 すると、彼は冷たい表情でこう答えた。

『理由?  そんなものは決まっているじゃないか。君は子爵家の令嬢だとはいえ、もとはと言えばただの平民出だろう』

 メイリーンは一瞬戸惑ったが、すぐに口を開く。

『そんなことはありませんわ。私は立派な令嬢ですもの!』

(そうよ。わたしは努力してここまできたのよ)

 メイリーンは心の中で叫んだ。しかし、その声は彼には届かないようだった。

 彼はこちらを睨みつけるようにしながら言葉を続ける。

『いいや、違うね! 君は自分の身分をわきまえていないようだ』

『……』

(そんなはずは……)

 メイリーンは言葉を失った。

 周囲を見回すと、周囲の人々も頷いているようだった。

 彼らの目は冷たく、まるで軽蔑しているように見えた。

(どうして?  なんでわたしが責められなきゃならないの?)

 メイリーンは絶望した。そして、力なくその場に膝をつくと、涙が溢れてきた。

(こんなことになるなんて……)

『さようなら、メイリーン嬢』

 公爵の無情な声が聞こえた瞬間、会場中に響き渡るように笑い声が聞こえてきた。

 公爵の隣には新しい婚約者の男爵令嬢がニヤニヤと下卑た笑いを浮かべている。

(ひどい……)

 メイリーンは屈辱に打ちひしがれながら、その場で泣き崩れた。


☆☆☆


「くうっ……!」

 アナリスは、思わず顔をしかめた。

 書いているうちにどんどん気持ちが重苦しくなっていき、涙も出るわ、胃が痛くなるわで大変だった。

(でも……実感があるし。これは完璧ね!)
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