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思わずため息が出そうになる。
しかし、ここでため息をついているわけにはいかないのだ。
わたしは気持ちを切り替えて背筋を伸ばした。
今日はアルフォード王太子殿下のお相手としてふさわしい態度を見せなければならないのだから──
「あら……?」
その時だった。
ふと周りからの視線を感じたような気がした。
不思議に思って辺りを見回すと、他の貴族令嬢たちがこちらを見てひそひそと話していることに気づいた。
「もう、クレア・ラックスフォードはおしまいだな。あんな事件を起こしたんだもの。当然でしょう」
「男爵令嬢クラリス・レインベルと婚約するんだわ」
「もとは平民の子でしょう?ありえませんわ」
「でも、殿下のご寵愛なら仕方ないでしょ」
そんな声が聞こえてくる。
わたしはそっと目を伏せた。
もちろん、クレアがやったことは許されることではないけれど、それでもかわいそうな気はしてしまうのだ。
ふと顔を上げると、ちょうど王太子殿下が会場に入ってきたところだった。
そして、後ろにはお兄様ルドルフに付き添われたクレアがやってきた。
いつもの派手なパーティドレスではなく、シンプルなデザインのドレスを身に纏っている。
しかし、その美しさは少しも損なわれていないように見えた。
むしろ普段よりも美しく見えるくらいだ。
(さすがは王太子殿下の婚約者のことはあるわね……)
わたしは素直にそう思った。
彼女はそのまま真っ直ぐこちらに向かって歩いてくると、わたしの目の前で立ち止まった。
「ごきげんようクラリス様」
そう言って微笑む彼女の表情からは余裕すら感じられた。
わたしは少し気後れしながらも挨拶を返すことにした。
「ごきげんようクレア様。とても、お綺麗だわ」
「ええ。あなたもよく似合っていますわよ」
彼女はそう言って微笑んだ。
そして軽く会釈をして、殿下の元へと向かった。
「殿下……お久しぶりです」
クレアはスカートの裾を持ち上げて淑女の礼を取る。
その姿は優雅で美しく、まるでどこかの国の王女のようだった。
「ああ、クレアか」
アルフォード王太子殿下は興味なさそうに呟いただけだった。
(本当に美しいわ……)
わたしは思わず見とれてしまった。
このパーティの主役はやはり彼女なのだと思ったほどだ。
それは他の貴族たちも同じようで、みな彼女に注目しているのが分かった。
「ふむ……まあ、いいだろう。今日はよろしく頼むよ」
しかし、ここでため息をついているわけにはいかないのだ。
わたしは気持ちを切り替えて背筋を伸ばした。
今日はアルフォード王太子殿下のお相手としてふさわしい態度を見せなければならないのだから──
「あら……?」
その時だった。
ふと周りからの視線を感じたような気がした。
不思議に思って辺りを見回すと、他の貴族令嬢たちがこちらを見てひそひそと話していることに気づいた。
「もう、クレア・ラックスフォードはおしまいだな。あんな事件を起こしたんだもの。当然でしょう」
「男爵令嬢クラリス・レインベルと婚約するんだわ」
「もとは平民の子でしょう?ありえませんわ」
「でも、殿下のご寵愛なら仕方ないでしょ」
そんな声が聞こえてくる。
わたしはそっと目を伏せた。
もちろん、クレアがやったことは許されることではないけれど、それでもかわいそうな気はしてしまうのだ。
ふと顔を上げると、ちょうど王太子殿下が会場に入ってきたところだった。
そして、後ろにはお兄様ルドルフに付き添われたクレアがやってきた。
いつもの派手なパーティドレスではなく、シンプルなデザインのドレスを身に纏っている。
しかし、その美しさは少しも損なわれていないように見えた。
むしろ普段よりも美しく見えるくらいだ。
(さすがは王太子殿下の婚約者のことはあるわね……)
わたしは素直にそう思った。
彼女はそのまま真っ直ぐこちらに向かって歩いてくると、わたしの目の前で立ち止まった。
「ごきげんようクラリス様」
そう言って微笑む彼女の表情からは余裕すら感じられた。
わたしは少し気後れしながらも挨拶を返すことにした。
「ごきげんようクレア様。とても、お綺麗だわ」
「ええ。あなたもよく似合っていますわよ」
彼女はそう言って微笑んだ。
そして軽く会釈をして、殿下の元へと向かった。
「殿下……お久しぶりです」
クレアはスカートの裾を持ち上げて淑女の礼を取る。
その姿は優雅で美しく、まるでどこかの国の王女のようだった。
「ああ、クレアか」
アルフォード王太子殿下は興味なさそうに呟いただけだった。
(本当に美しいわ……)
わたしは思わず見とれてしまった。
このパーティの主役はやはり彼女なのだと思ったほどだ。
それは他の貴族たちも同じようで、みな彼女に注目しているのが分かった。
「ふむ……まあ、いいだろう。今日はよろしく頼むよ」
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