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わたしはうっとりとしながら彼の胸に顔を埋めたいが、使用人の目もあるので、笑顔だけで済ませる。

(でも、この続きはまた今度ね)

「これから、少し話せるかな?」

「ええ、お兄様。でもちょっと汗かいちゃったわ。湯浴みでもしてくるわね」

湯浴みとは言ってみたものの、実際はそれほど汚れているわけではない。

でも、高まる気持ちを落ち着かせたかった。

「それなら、クラリスの部屋で夕食しないか」

入浴を終えて、部屋着に着替えて自室に戻ると、すでに夕飯が部屋に運ばれていた。

(ああ……幸せ……)

お兄様と他愛のない会話を交わしながら食事する。

ただそれだけのことなのに、心が満たされていくようだった。

夕食の献立は、鶏肉の香草焼きと野菜のスープ、それに小麦パンである。

(うーん……もっと凝った料理がよかったかな……)

でも、そんな不満はすぐにどこかへ吹き飛んでしまった。

お兄様と同じ空間で同じ時間を過ごせているという事実が何よりも大切だと感じたからだ。

(ああ……お兄様と結婚したら毎日こんな生活なのね)

食事を終えても名残惜しい気持ちが消えず、わたしは食後のデザートに思いを馳せていた

──その時だった。

不意に、お兄様が真顔になって、

「今日、殿下と中庭で話していたね」と言った。

(あっ……!)

わたしは思わず赤面してしまった。

殿下といっしょにいたところを見られたのだ。

きっと、校舎の上階から見たら、丸見えだろう。

(やってしまったわ……)

わたしは恥ずかしさのあまり俯いてしまった。

すると、お兄様が口を開いた。

「何も聞かないよ」

(えっ……?)

一瞬、耳を疑った。

てっきり何をしていたか聞かれると思っていたからだ。

「そ、そういえばそうだったわ!再来週に、王宮で盛大な夜会があって、その場でわたしを婚約者として発表したいんですって……」

「殿下がそう仰っていたのかい?」

「ええ、そうよ……」

わたしは気まずくなって、つい、小声になってしまう。

「それでね、わたし、クレア様のご自宅にうかがって……何とか殿下をお引止めいただきたい。本当に好いているのはルドルフお兄様だと……」

わたしはそこまで話してからハッとした。

(ああ……つい本音が……!)

興奮してつい自分のことをしゃべってしまったけれど、お兄様はそっとわたしの瞳をのぞき込んで、静かに尋ねた。
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