上 下
26 / 45

(26)

しおりを挟む
◇◇◇


それからほどなくして、談話室で親友のマリエッタとおしゃべりをしていると、アルフォード殿下が顔を出した。

「ちょっと、話せるかな?」

「は、はい!」

殿下は私を中庭まで連れて行った。

「再来週に、王宮で盛大な夜会を開くことになっているんだが。ぜひ、君にも来てほしいんだ」

「え……?わたしが……ですか?」

アルフォード殿下は、力強くうなずくと、わたしの手を取った。

「君には婚約者もいないし、僕の正式な婚約者として社交界デビューして貰いたいと思っているんだ。お願いできるかな?」

「そ、そんな……クレア様がいらっしゃるのに困ります!」

わたしは思わず後ずさりしてしまったが、殿下は逃すまいとわたしに抱きついてきた。

(うわぁっ!?)

わたしは慌てて周囲を見回したが、幸いにも人影はなかった。

でも、誰かに見られたら大変だと思い、わたしは殿下を引きはがした。

「お、お戯れはお止めください!」

「ははっ!ごめんごめん」

殿下は笑いながら謝ってくれたけど、わたしの心臓はまだドキドキしていた。

(うぅ……びっくりした……)

わたしは深呼吸をして心を落ち着かせようとしたけれど、なかなかうまくいかなかった。

そんなわたしをニヤニヤしながら見ていた殿下だったが、やがて真面目な顔に戻って言った。

「冗談じゃなくて本気だよ。君と婚約すれば、僕の目的に一歩近づくことができるんだ」

「え……目的……?」

「まあ、それは今は言えないけれどね」

殿下は意味深に微笑むと、わたしの手を再び握ってきた。

そして、じっとわたしの目を見つめながら言った。

「お願いだよ。僕のパートナーになってほしい」

「でも……わたしなんかでよろしいのでしょうか……」

アルフォード殿下にはもっとふさわしい人がいるはずだ。

例えば、公爵家の令嬢であるクレア様とか。

わたしはしがない男爵家の令嬢にすぎないのだから。

それなのに、なぜわたしなのだろう?不思議に思っていると、殿下は優しく微笑んだ。

「君だからいいんだよ」

「え……」

(それって……クレア様と婚約破棄です。大変ですわ)

殿下はわたしの胸の中なんかお前なしに、唇を近づけてわたしの唇を奪った。

わたしは驚いて、両手をばたばたと動かした。

「んん……」

(だめっ!キスはいや……)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

処理中です...