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しばらくそうしていたが、やがて落ち着いてくると、二人で並んでベッドに腰かける。
それからしばらくの間は二人とも黙って寄り添っていたが、やがて口を開いたのはルドルフの方だった。
「クラリスは、殿下と結婚したいの? 殿下のことが本当に好きなのかい?」
ルドルフの言葉にわたしはしばらく黙ってから、
「わからないわ。お母さまも、おそらくお父様だってそれを望んで、私を養女として引き取り、主席で入学させたのだわ。でも……もし私が殿下と結婚したら、お兄様はどうなるの?」
わたしが尋ねると、ルドルフは寂しげに微笑んだ。
「大丈夫だよ。ぼくはクラリスさえ幸せなら、それで満足だから」
「……嘘!」
わたしは思わず叫んでいた。
兄のそんな優しさが時にわたしを傷つけていることを彼は知っているのだろうか?
自分の心の中に芽生えた感情を押し殺して生きていくことがどれだけ辛いのかを分かっているのだろうか?
だが今のルドルフにそれを尋ねても無駄なことだと分かっていたので黙っていた。
「お兄様はそれで平気なの? わたしだけが幸せで、お兄様は何も得ることができないのよ?」
わたしが言うと、彼は黙って首を横に振った。
「そんなことないさ。ぼくは君が笑顔でいてくれるだけで十分だよ」
ルドルフはそう言って微笑んだが、それが本心でないことは明白だった。
なぜなら彼の目には涙が浮かんでいるように見えたからだ。
きっと彼も苦しんでいるのだろう……そう思うと胸が締め付けられるような気持ちになった。
本当は自分だってわたしと一緒に暮らしたいのだ。
でも……それができないことも分かっている。私たちは兄妹なのだ。婚姻を結べない。
私が黙っていると、ルドルフは話し出した。
「噂によると、クレア・ラックスフォード公爵令嬢のプライドの高さに、アルフォード殿下は手を焼いているようだ。両家の政略結婚で4歳で婚約をして、学校を卒業する18歳するんだから。クレアは恋しているのに、彼女は全くその気がないみたいだ」
「そう……それは可哀想ね」
わたしは何気なく呟いただけだったのだが、それがルドルフは引っかかったらしい。
彼は急に険しい顔になって、わたしの両肩を掴んだ。
「用心した方がいいということだよ。殿下が学校できみに親しく接してきたら、その分、クレア様は黙っていないだろう。プライドの高い女性ほど、自分が見下した相手に婚約者を奪われるのが一番堪えるのだから」
「嫌ね、お兄様ったら。心配してくれるのは嬉しいけれど、私は大丈夫よ」
わたしが微笑んで答えると、彼はため息をついてわたしの体を離した。
それからしばらくの間は二人とも黙って寄り添っていたが、やがて口を開いたのはルドルフの方だった。
「クラリスは、殿下と結婚したいの? 殿下のことが本当に好きなのかい?」
ルドルフの言葉にわたしはしばらく黙ってから、
「わからないわ。お母さまも、おそらくお父様だってそれを望んで、私を養女として引き取り、主席で入学させたのだわ。でも……もし私が殿下と結婚したら、お兄様はどうなるの?」
わたしが尋ねると、ルドルフは寂しげに微笑んだ。
「大丈夫だよ。ぼくはクラリスさえ幸せなら、それで満足だから」
「……嘘!」
わたしは思わず叫んでいた。
兄のそんな優しさが時にわたしを傷つけていることを彼は知っているのだろうか?
自分の心の中に芽生えた感情を押し殺して生きていくことがどれだけ辛いのかを分かっているのだろうか?
だが今のルドルフにそれを尋ねても無駄なことだと分かっていたので黙っていた。
「お兄様はそれで平気なの? わたしだけが幸せで、お兄様は何も得ることができないのよ?」
わたしが言うと、彼は黙って首を横に振った。
「そんなことないさ。ぼくは君が笑顔でいてくれるだけで十分だよ」
ルドルフはそう言って微笑んだが、それが本心でないことは明白だった。
なぜなら彼の目には涙が浮かんでいるように見えたからだ。
きっと彼も苦しんでいるのだろう……そう思うと胸が締め付けられるような気持ちになった。
本当は自分だってわたしと一緒に暮らしたいのだ。
でも……それができないことも分かっている。私たちは兄妹なのだ。婚姻を結べない。
私が黙っていると、ルドルフは話し出した。
「噂によると、クレア・ラックスフォード公爵令嬢のプライドの高さに、アルフォード殿下は手を焼いているようだ。両家の政略結婚で4歳で婚約をして、学校を卒業する18歳するんだから。クレアは恋しているのに、彼女は全くその気がないみたいだ」
「そう……それは可哀想ね」
わたしは何気なく呟いただけだったのだが、それがルドルフは引っかかったらしい。
彼は急に険しい顔になって、わたしの両肩を掴んだ。
「用心した方がいいということだよ。殿下が学校できみに親しく接してきたら、その分、クレア様は黙っていないだろう。プライドの高い女性ほど、自分が見下した相手に婚約者を奪われるのが一番堪えるのだから」
「嫌ね、お兄様ったら。心配してくれるのは嬉しいけれど、私は大丈夫よ」
わたしが微笑んで答えると、彼はため息をついてわたしの体を離した。
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