【完結】殿下と結ばれるためにがんばっているのに、なぜか義兄にも好意を抱かれて、とまどっています。

朝日みらい

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名前を呼ばれて、わたしは一歩前へ出る。

すると目の前に大きな壁が現れ、そこに魔物を模した的が現れる。

わたしは杖を構えて、

「炎よ!」

と呪文を唱えるが、杖の先からは何も出てこない。

わたしの放った呪文は不発に終わり、目の前からは炎が消えて、ただの壁が残る。

周囲から失笑が聞こえた気がした。

恥ずかしい気持ちになって思わずうつむくと、教師の冷たい声が耳に届く。

「もう一度やってみてください」

その言葉にうながされるようにして、わたしはあきらめずに魔法を何度も繰り返す。

だけど、わたしの杖先からは炎も水も何も出てこない。

教師がいらだたしげにわたしを睨んでいる。

「レインベル男爵令嬢、もういいです」

教師はそう言って立ち去ろうとした。

わたしは肩で息をしながら、その場に立ち尽くしていた。

やっぱりわたしには無理なのだろうか? 

 そんなことを考えるだけで目の前が真っ暗になりそうだった。

わたしのそばに立つほかの受験者たちの視線が突き刺さるようだった。

そんな中、誰かに声をかけられた気がした。

 ふり向くと、ルドルフが校舎の窓から、わたしを見下ろしていた。
 
 口パクで、「雷を出せ」と言っている。

 わたしは杖先を的に向けて「雷よ!」と叫んだ。

すると、杖の先から青白い雷が放たれて、それは的に命中し、その的は粉々に砕け散った。

周囲から拍手が起こった。

(ありがとうございます! ルドルフお兄様!)

わたしは嬉しくて泣きそうになりながら、校舎に向かって手を振った。

緊張してしまうと炎や水の魔法が出せなくなるのをお兄様は知っていて、敢えてコントロールが難しい雷を勧めてくれたに違いない。失敗したら的外れになるけれど、そうなっても構わないから思い切ってやれ、とお兄様は背中を押してくれたのだ。

教師たちもみんな驚いてわたしを見ていたけれど、そんなのはどうでもよかった。

わたしはその後も全力で試験を終わらせたのだった。


そして入学試験の翌日から試験結果の発表が行われたのだが、なんとわたしは首席だった。

「奇跡だ」

と試験官の先生がわたしに言った。

「筆記試験は満点だったし、実技試験でも誰も真似できないような威力の魔法を放ったそうだね」

「……いえ、あれはまぐれです。わたしなんかがあんなすごい魔法を使えるわけがありませんから」

そう謙遜すると、教師はさらにこう言ったのだ。

「いや、そんなはずはないよ。あの魔法は王立学校始まって以来のものらしいからね。魔力もとても高いようだね」

そもそも貴族階級は魔法の力が強い。

わたしは貧農の出身だ。

魔力が高いはずはないが、お兄様に教えてもらい、最大限に引き上げてもらったに過ぎない。

「いえ、わたしの魔力なんてたいしたことありません。平民出身ですし、どこにでもいる普通のレベルです」
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