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19 再会
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冬が近づき、肌寒い午後だった。
フローラルとリリア、そしてアングリーズは、リリアの温かい手作りのセーターを着ていた。
アングリーズの体調もすっかり良くなって、店の手伝いを始めている。
いつもの午後の、『青空演奏会』が始まる頃になると、村人たちや通行人たちが集まってきた。
その中には、魔王も、アーゴイルを初め魔人たちも屋敷の建設作業を中断して、集まってきた。
フローラルが普段通り、椅子に腰かけてハーブの弦に手を触れて奏で始めた時だった。
聴衆の中に、かつての冒険者仲間のオクセンと、どこか見覚えのある男が並んで立っているのが、目に入る。
フローラルは突然、弾く手を止めた。
カタカタと震えて、これ以上、奏でることができなくなる。
一体何が起きたのか分からない群衆たちは、ただ彼女の挙動を見守るしかない。
たまりかねて、魔王が彼女のそばに駈け寄り、肩を支える。
「大丈夫か?」
心配する魔王が傍らにいるにもかかわらず、彼女の視線を聴衆の一人を見据えていた。
「……お父さま。お父さま」
フローラルは駆けだし、その男の腰まわりにしがみついた。
「すまなかった」
父親は、声を立てずに泣いていた。
「いいの、父さん……もう」
「死んだと、わたしは嘘ついて……。きっと、生きているといったら……お前は戦いに来ると……思った」
フローラルは首を横に振りながら、涙で歪んだ顔を笑顔に変えて、
「お帰り……」
瞼から噴きこぼれた涙をあふれ出したまま、二人は抱き合い続けていた。
フローラルとリリア、そしてアングリーズは、リリアの温かい手作りのセーターを着ていた。
アングリーズの体調もすっかり良くなって、店の手伝いを始めている。
いつもの午後の、『青空演奏会』が始まる頃になると、村人たちや通行人たちが集まってきた。
その中には、魔王も、アーゴイルを初め魔人たちも屋敷の建設作業を中断して、集まってきた。
フローラルが普段通り、椅子に腰かけてハーブの弦に手を触れて奏で始めた時だった。
聴衆の中に、かつての冒険者仲間のオクセンと、どこか見覚えのある男が並んで立っているのが、目に入る。
フローラルは突然、弾く手を止めた。
カタカタと震えて、これ以上、奏でることができなくなる。
一体何が起きたのか分からない群衆たちは、ただ彼女の挙動を見守るしかない。
たまりかねて、魔王が彼女のそばに駈け寄り、肩を支える。
「大丈夫か?」
心配する魔王が傍らにいるにもかかわらず、彼女の視線を聴衆の一人を見据えていた。
「……お父さま。お父さま」
フローラルは駆けだし、その男の腰まわりにしがみついた。
「すまなかった」
父親は、声を立てずに泣いていた。
「いいの、父さん……もう」
「死んだと、わたしは嘘ついて……。きっと、生きているといったら……お前は戦いに来ると……思った」
フローラルは首を横に振りながら、涙で歪んだ顔を笑顔に変えて、
「お帰り……」
瞼から噴きこぼれた涙をあふれ出したまま、二人は抱き合い続けていた。
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