【完結】聖女は癒しの力で争いのない、愛の世界をめざします。

朝日みらい

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 エミリーは、アルベール公爵との婚約式を待ち望んでいました。

 美しい会場やドレス、おいしい食事、そして大切な人たちに囲まれて、幸せな時間を過ごしたいと思っていたのです。

 しかし、あまりにもアルベールとの日常が幸せ過ぎて、かえって心から喜べないのでした。彼女は、自分の幸せが他の人々の不幸の上に成り立っているのではないかと罪悪感を感じるのです。

 毎朝、エミリーはアルベールと一緒に屋敷の庭園で散歩して、お互いに口づけを交わしていても、遠くから鐘の音が聞こえてくるのです。

 それは戦争で死んだ兵士や市民を追悼するための鐘でした。

 エミリーは唇をすぼめて、アルベールの目を見ました。アルベールの目にも悲しみや苦しみや怒りが浮かんでいるのが分かりました。


 それから数日後、エミリーはアルベールの婚約式の来賓リストを見て、驚きの声をあげました。それは、国王夫妻とともに、戦争中の敵対するアズガルド王夫妻まで呼んでいたのです。

 エミリーは、アルベールの目を見て、問いかけました。

「アズガルド王夫妻を……?」
 
 アルベールは、エミリーの手を握り、穏やかに説明しました。

「エミリー、私は、これが和平を進めるためのきっかけになると信じているんだ。事前に使者を送って国王夫妻からこの計画について伝えて、準備は整えてある。アズガルド王夫妻に対しても、私たちの婚約式に参加することを機会に、停戦協定を結ぶという提案を呼び掛けてある」

「それが本当に成功するかしら?」

「そうなると思うよ。彼らもまた、この長く苦しい戦争に疲れているはずだ。平和を望んでいるだろう。両国の首脳が信頼と友好の手を差し伸べるきっかけで、新しい関係を築く手助けができるはずだ」

「本当に……そうなったらうれしいわ。だけど……」

「だいじょうぶだよ、エミリー。私を信じて。君を危険にさらすつもりはない。あなたと一緒に幸せになりたいし、この戦争を終わらせたいとも思っている」

 アルベールは、エミリーの顔をそっと撫でて、優しく微笑みました。


 会場の選定も、アルベールの決断でした。戦闘が繰り広げられている国境近くの古城を選んでいたのです。

 エミリーは、アルベールと選んだ会場に到着したとき、息をのみました。それは、荘厳で美しい古城でした。

 しかし、その周りには、戦争の爪痕が残っていて、破壊されたドアや窓、焼け焦げた壁や木々、そして散らばったた血痕まで残っていたのです。

 エミリーは、その光景に胸が痛みました。

「アルベール、ここで婚約式をするの?」

「もちろん片づけはするけどね。でも、この古城で婚約式をすることで、戦争の悲惨さと平和の尊さを示すことができると思うんだ。ここを会場にすれば、敵対する国々に和解と協力のメッセージを送ることができるし、私たちの愛が戦争を超えることを証明することができると思っているから」

「でも、もし攻撃されたら? ここは戦闘地域に近いから……」

「大丈夫だよ。国王夫妻から十分な警備を用意してもらうよう依頼している。アズガルド王夫妻もこの婚約式に何も手出ししないと約束している」

「だけど、戦況は予想がつかないものよ」

「エミリー、私に信じてほしい。実を言うとね、エミリーやみんなを守る力があるんだよ」

「守る力? どういうこと?」

 アルベールは、エミリーに真剣な表情で言いました。

「エミリー、私には破壊と癒しの力を持っているんだ。それは神から授かった力だ」

「神から?どういうこと?」

「私は戦場で生死をさまよったとき、この世界を破壊する力と、癒しの力を手に入れたんだ。それは神の試練だったんだ」

「試練?どんな試練?」

「神は私に言ったんだ。この世界は悪に満ちており、滅びるべきだと。そして私にこの世界を破壊する力を与えたんだ。しかし同時に私に癒しの力も与えたんだ。それはこの世界を救う力だと言ったんだ。そして私に選択肢を与えたんだ。この世界を破壊するか癒すか」

「それで、どう思ったの?」

「迷ったよ。この世界は本当に悪に満ちているのかと。この世界は本当に滅びるべきなのかと。この世界には本当に救いはないのかと。しかし私は思い出したんだ。私はあなたに出会ったことを。愛されたことを。私はあなたと幸せになりたいことを。そして決めたんだ。この世界を癒すことをね」

「アルベール・・・」

「エミリー、私はきみのおかげで、愛する君がいるこの世界を救うことを選んだ」

 彼女は、アルベールの胸に抱きついて、耳元で囁きました。

「アルベール、ありがとう……」

 アルベールは、エミリーを強く抱きしめました。
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