【完結】聖女は癒しの力で争いのない、愛の世界をめざします。

(6)

　エミリーは実家から離れて、教会の宿舎に住むことになりました。

　宿舎は教会の敷地内にあり、他の聖女候補や司祭たちと共に暮らしました。

　宿舎は清潔で静かで快適でしたが、エミリーは最初は寂しさや不安を感じました。

　ですが、やがて宿舎での生活に慣れていきました。

　他の聖女候補や司祭たちと仲良くなりました。彼女は教会で神様に祈ったり、聖書を読んだり、礼拝に参加したりしました。
　癒しの力を高めるために、司祭たちから様々な訓練を受けました。

　力の原理や方法や、力を使用することで著しく体力も消耗する限界も学びました。
　彼女は癒しの力を使って、人々や動物や植物の傷や病気を治しましたり、火事や洪水や疫病などの災害にも対処できるように、訓練もしました。

　２年間の訓練を経て、癒しの力が強くなってきました。

　癒しの力で小さな傷だけでなく、重傷や難病も治すことができるようになりました。彼女は癒しの力で一人だけでなく、多くの人々も同時に癒すことができるようになりました。

　そして、いよいよエミリーは戦場へ送られることになりました。

　自分の癒しの力で戦争を終わらせたいと思っていました。彼女は国軍の一員として、アズガルド王国との国境付近にある要塞に到着しました。そこで悲惨な光景を目にしたのです。

　要塞の周りでは、たくさんの兵士たちが小競り合いを続けていました。
　彼らは剣や盾や矢や槍などの武器で、互いに傷つけ合っていました。血や汗や涙や泥で汚れた兵士たちが、死にゆく仲間や敵を見ながら、必死に生き延びようとしていました。

　要塞の中では、多くの負傷者が治療を待っていました。彼らは様々な傷や病気に苦しみながら、医者や看護師や司祭たちの手当てを受けていました。傷口に縫合したり、包帯を巻いたり、薬を飲ませたり、祈りを捧げたりしても、彼らの痛みや苦しみは消えません。

　エミリーはこの悲惨な光景に心を痛めました。自分の癒しの力で、できるだけ多くの人々を助けようと決心しました。彼女は負傷者たちのそばに駆け寄りました。癒しの力で、傷や病気を治しました。手からピンク色の光が負傷者たちに流れ込みました。傷や病気はすぐに消えて、元通りになりました。

　負傷者たちはエミリーに感謝しました。

「エミリーさん、ありがとう。あなたは本当にすごい聖女ですね。神様から偉大な力を授かったんですね。何とかその力で戦争を止めてください」

　エミリーは負傷者たちに笑顔で答えました。

「私も皆さんの勇気に感謝します。幸せで元気でいてほしいのです。この力を持って生まれたんです。この力で人々を助けたいんです。この力で戦争を終わらせます」

　エミリーは教会の中にある仮設の病院で、次々と運ばれてくる兵士たちの治療にあたっていました。両国の戦争では敵味方関係なく、癒しの力で治療をしたのです。それにアズガルド国王の王子まで助けたので、味方の兵士から反発が上がりました。

「わたしは聖女です。傷ついた人には分け隔てなく治療するのが、わたしの役目ですから」

　そして、自分の癒しの能力を使って、彼らの傷や病気を癒し続けていきました。
　苦しみや悲しみを和らげていったのです。

　エミリーは自分の体や心の限界を無視して、昼夜を問わず治療を続けました。
　自分のことよりも、他人のことを優先しました。自分の幸せよりも、世界の平和を願ったのです。

　ある日の夕方、エミリーは野営地で兵士の治療をしていました。傷や病気を治していました。
　しかし、そのとき魔王が現れました。彼は負傷者のふりをして、テントに入ってきたのです。

「やあ、少女。私を覚えているかな。おまえの癒しの力を欲しがっていた魔王だよ。お前が身も心も私にゆだねれば、お前の力を奪って、この世界を変えてやる。私はこの世界を君の望む世界に癒して、住みよい世界にしてやるよ。私のもとで幸せにしてやるんだ。そうすれば、いずれお前は私を愛するようになるだろう」

　エミリーは魔王に反発しました。

「あなた、何を言ってるの？　あなたに癒しの力なんか渡しませんし、あなたのもとになんか行きません。あなたなんか愛しません。この力で人々を助けたいんです。この力で神様のお役に立ちたいんです。この力で戦争を終わらせます」

　魔王はエミリーに嘲笑しました。

「ふふふ、お前は相変わらず生意気だね。癒しの力を渡さないと言っても、無駄だよ。私はお前の力を奪う方法を見つけたんだ｣

　エミリーは背中に阿寒が走りました。

「また、どんなことを企んで……？」

　魔王はエミリーに冷たく答えました。

「お前はずっと、身体を酷使してきた。ろくに睡眠もしていないだろう？」

　エミリーは、急に疲労感を感じました。

「あなた、一体、わたしに何をしたの……？」

　魔王はエミリーに邪悪に笑いました。

「ふふふ、いくら能力があったとしても、お前はただの生身の人間にすぎないんだ。お前の体力を弱らせて、お前の力を奪うだけだ」

「や……やめて。ここで力尽きるわけにはいかな……」

　彼女は床に倒れました。意識を失って、深い眠りに落ちていきました。