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それから半年後、戦場からの手紙が届きました。
『親愛なるエミリーへ
きみの元気な声が聞きたい……。きみの笑顔が見たいです。あの温かい抱擁を感じたい。きみに会える日を心から待ち望んでいます。
ぼくは今、アズガルド王国との国境にある要塞にいます。ここは戦争の最前線です。毎日、敵との戦闘が繰り広げられています。剣や盾や矢や槍などの武器で、互いに傷つけ合っています。血や汗や涙や泥で汚れた兵士たちが、死にゆく仲間や敵を見ながら、必死に奮戦しています。ぼくは、この力で早く戦争を止めることができない事実に苛立っています。
ぼくは約束するよ。必ず生きて帰ってきます。必ずきみに会います。必ず幸せにします。
これからもずっと、あなただけを。
アルベールより』
手紙を受け取った晩、エミリーはすぐに返信の手紙をしたためました。
『アルベールへ
あなたからの手紙を受け取って、とても嬉しかったよ。
あなたは戦争で大変な思いをしているのね……。
私はあなたのことを心配よ。あなたのことを心から愛してる。愛しすぎているくらいに。
ぜったいに戦争で死なないでほしい。怖かったら逃げてきてほしいよ。
臆病者なんて言われてもいいの。愛国者でないと、ののしられたっていいわ。
どんなことがあっても、どんなこと言われても、アルベールの味方だよ。これからもずっと一緒にいるわ。あきれるほどにね。
ここでずっと、あなたを待っています。
どうか、無事で帰ってきてほしい。空を見上げたらわたしのことを思い出してね。どうか、元気で笑顔でいて……。
心から愛しています。
あなたのエミリーより』
その夜、アルベールが戦場で死ぬのではと、エミリーは心配して悪夢に襲われていました。
ベッドに夜中に目を覚ましましたが、そのときベッドわきに、ギラギラした赤い目の魔王が現れました。
「やあ、少女。私を覚えているかな。お前の癒しの力を欲しがっていたあの悪魔だよ。約束したとおり、また来たよ。癒しの力を奪うために」
エミリーはおびえながらも、こう叫びました。
「私から離れて! 癒しの力なんか渡しません! 大嫌いです!」
魔王はエミリーに嘲笑しました。
「ふふふ、君は相変わらず生意気だ。癒しの力を渡さないと言っても、無駄だよ。私はお前の力を奪う方法を見つけたんだ。それは、君の大切な人を奪うことだ、とね」
エミリーは魔王の言葉にぞっとしました。
「大切な人? いったい誰のこと……?」
魔王はエミリーに冷たく答えました。
「とぼけても無駄だ。愛しているあの青年のことだよ。アルベールという名前だったかな。彼は今、戦場で戦っているんだろう。だが、彼はいずれ死ぬよ。私が運命を変えていくからね」
エミリーはベッドから飛び起きて、魔王の足元にひざまずいて懇願しました。
「やめてください! そんなことしないでください。アルベールを殺さないで。アルベールは私の大切な人です。私のすべてなの。愛そのものなのよ!」
魔王はエミリーに、冷酷に言いました。
「お前がそう言っても、止めないよ。私が癒しの力を手に入れて、お前の愛を手にするためなら、何でもする。私はお前の大切な人を殺すことで、君の力を弱らせるんだ。そして、私は力を奪い、お前の愛までも」
エミリーは、魔王に涙を流しながら抵抗しました。
「あなたを愛する? 絶対ない。だからやめて。癒しの力を奪わないで。アルベールを奪わないでください。私から幸せを奪わないで!」
魔王は、エミリーに邪悪に笑いました。
「ふふふ、お前がどんなに泣いてもわめいても、私は聞かないよ。どんなに叫んでも、止まらない。どんなに頼んでも許さない。愛しているものを、私は根こそぎ奪う」
そういい残すと、魔王は長い黒髪をなびかせて、黒いマントをひるがえして姿を消しました。
『親愛なるエミリーへ
きみの元気な声が聞きたい……。きみの笑顔が見たいです。あの温かい抱擁を感じたい。きみに会える日を心から待ち望んでいます。
ぼくは今、アズガルド王国との国境にある要塞にいます。ここは戦争の最前線です。毎日、敵との戦闘が繰り広げられています。剣や盾や矢や槍などの武器で、互いに傷つけ合っています。血や汗や涙や泥で汚れた兵士たちが、死にゆく仲間や敵を見ながら、必死に奮戦しています。ぼくは、この力で早く戦争を止めることができない事実に苛立っています。
ぼくは約束するよ。必ず生きて帰ってきます。必ずきみに会います。必ず幸せにします。
これからもずっと、あなただけを。
アルベールより』
手紙を受け取った晩、エミリーはすぐに返信の手紙をしたためました。
『アルベールへ
あなたからの手紙を受け取って、とても嬉しかったよ。
あなたは戦争で大変な思いをしているのね……。
私はあなたのことを心配よ。あなたのことを心から愛してる。愛しすぎているくらいに。
ぜったいに戦争で死なないでほしい。怖かったら逃げてきてほしいよ。
臆病者なんて言われてもいいの。愛国者でないと、ののしられたっていいわ。
どんなことがあっても、どんなこと言われても、アルベールの味方だよ。これからもずっと一緒にいるわ。あきれるほどにね。
ここでずっと、あなたを待っています。
どうか、無事で帰ってきてほしい。空を見上げたらわたしのことを思い出してね。どうか、元気で笑顔でいて……。
心から愛しています。
あなたのエミリーより』
その夜、アルベールが戦場で死ぬのではと、エミリーは心配して悪夢に襲われていました。
ベッドに夜中に目を覚ましましたが、そのときベッドわきに、ギラギラした赤い目の魔王が現れました。
「やあ、少女。私を覚えているかな。お前の癒しの力を欲しがっていたあの悪魔だよ。約束したとおり、また来たよ。癒しの力を奪うために」
エミリーはおびえながらも、こう叫びました。
「私から離れて! 癒しの力なんか渡しません! 大嫌いです!」
魔王はエミリーに嘲笑しました。
「ふふふ、君は相変わらず生意気だ。癒しの力を渡さないと言っても、無駄だよ。私はお前の力を奪う方法を見つけたんだ。それは、君の大切な人を奪うことだ、とね」
エミリーは魔王の言葉にぞっとしました。
「大切な人? いったい誰のこと……?」
魔王はエミリーに冷たく答えました。
「とぼけても無駄だ。愛しているあの青年のことだよ。アルベールという名前だったかな。彼は今、戦場で戦っているんだろう。だが、彼はいずれ死ぬよ。私が運命を変えていくからね」
エミリーはベッドから飛び起きて、魔王の足元にひざまずいて懇願しました。
「やめてください! そんなことしないでください。アルベールを殺さないで。アルベールは私の大切な人です。私のすべてなの。愛そのものなのよ!」
魔王はエミリーに、冷酷に言いました。
「お前がそう言っても、止めないよ。私が癒しの力を手に入れて、お前の愛を手にするためなら、何でもする。私はお前の大切な人を殺すことで、君の力を弱らせるんだ。そして、私は力を奪い、お前の愛までも」
エミリーは、魔王に涙を流しながら抵抗しました。
「あなたを愛する? 絶対ない。だからやめて。癒しの力を奪わないで。アルベールを奪わないでください。私から幸せを奪わないで!」
魔王は、エミリーに邪悪に笑いました。
「ふふふ、お前がどんなに泣いてもわめいても、私は聞かないよ。どんなに叫んでも、止まらない。どんなに頼んでも許さない。愛しているものを、私は根こそぎ奪う」
そういい残すと、魔王は長い黒髪をなびかせて、黒いマントをひるがえして姿を消しました。
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