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終章 幕が上がるとき

4 (最終回)

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 舞台袖に引き上げると、深刻そうな顔をした探偵とサチが待っていた。
「すばらしい演技だったです」
探偵が、バラの花束を差し出した。
「ありがとうございます。それというのも、登さんが見守ってくれたからですわ」
「望月登さん?ええと、どちらにいましたっけ…?」
探偵は、とまどった色を浮かべる。
光子は頬をバラ色に染めて微笑んだ。
「ご冗談を。ほら、最前列の中央にいました」
「いいえ。確かに空席でした」と探偵は断言した。
「望月登さんは、開演前にバイク事故で亡くなりました」
「そう…」
光子は、震える手で、胸元をぎゅっと握りしめた。
涙は出てこない。
なぜ泣く必要などあるだろう。
こんなにまだ胸が熱い。
もう独りぼっちではない。
この胸の中で、守が生きている。
彼の鼓動がする。
息遣いが感じられる。
彼が、すぐ近くにいる気配がする。

そして再び、あの最後のセリフを思い切り、口の中で叫ぶ。
「ええ、あなたが見えるわ!そうよ、いるわ。そこにいるわ。たとえどんな残酷な運命が私たちをもてあそんだとしても。決して私たちは離れない。永遠に、あなたはこの胸の中に!」

―了―

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