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刻まれた記憶

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  7月はあっという間に過ぎて行った。

 大学はこの月末で前期の授業は終了なので、学生たちは9月まで自由を満喫する。

 類子は相変わらず探偵事務所の仕事でてんてこ舞いだし、光子は劇団で1日中過ごす。友達の間では毎日メールを交わして、お互いの信頼関係を常に報告し合う。

 そして、返信が来ないと自分に関心がないのだとか、ないがしろにされていると感じて関係が悪化したりする。

 だが、類子とはそんな心配は無用である。
 そもそも彼女は携帯電話さえなかったし、何か用事があれば事務所に連絡すればよかった。大抵はそこに閉じこもっていたし、外出するのを毛嫌いしていたからである。

 そのような訳で、光子は朝6時から稽古場の鍵を開け、ポットで湯を沸かした。
 『トレーニング室』の手前に広い台所があった。
そこには大きな炊飯器や鍋、フライパンが棚にぎっしり積まれてある。

 光子はいつも食料庫から米袋を引っ張り出して、米を研ぐと炊飯器のスイッチを入れた。大抵、このあたりでサチや他の女性スタッフが眠そうな顔で入ってくる。

「あなたは何もしなくてもいいのにー」
 いつもの間延びした口調でサチは言った。

 けれど、その表情に何もそれを咎めるような意味は読み取れない。
 かえって、来てくれて助かっているという笑みを浮かべている。

「新人ですから。当然ですよ」

 光子は稽古場に戻って折りたたみのテーブルを広げて、テーブルクロスを掛ける。

 一方、手馴れたようにサチは肉と野菜を洗って包丁で細く切り、鍋に放り込む。

 1時間ほどで団員たちが集まった頃には、カレーの美味しそうな匂いが漂っていた。
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