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異世界
12 魔女
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さらに、鼻に近付けて臭いを嗅ぐが、そもそも屋内の空気がよどんでいるせいで、はっきりと距離までは感じ取ることができない。
ケンは生じる不快感に促されるように光を前へ。進もうとしていた先に、その匂いがクローゼットの中からだと特定できた。
「――ああ、わたしを見つけてくれてありがとう。あなたは無能じゃない。特別な存在だわ。さあ、ベビーちゃん、こっちに来なさいよ」
あの血なまぐさい匂いと、女の低い声。
鼻をつくような 低く冷淡で、どことなく楽しげな女の声がした気がして、クローゼットの扉が開いた。
身長の高い女性だ。ケンと同じぐらいの背丈に、年齢は二十台前半くらい。
顔立ちは目尻の垂れたおっとりした雰囲気の美人で、病的に白い肌が薄暗い蔵の中でもはっきりと目立つ。
黒い外套を羽織っているが、前は開けているのでその内側の肌にぴったり張り付いた同色の装束が目につく。細身ながらも出るとこの出たナイスバディだ。
そしてケンと同じく、この世界では珍しいとされる黒い髪の持ち主。背を越して腰まで届く長い髪を編むように束ねて、指先でその先端を弄んでいる。
どことなく妖艶な雰囲気の大人のお姉さんだ。
ケンにとって縁がない上に、経験値もかなり少ない稀有なキャラである。
端的に言えば、超ドギマギせざるを得ない。
「やばい、レベルゲージが1000超えてるぞ……」
精神的に優位をとられて、思わず腰が引けてしまうケン。
彼女はそれを気にした様子もなく小首を傾け、
「部外者がいる気がするのだけれど。ベビーの後に隠れてないで出てきなよ。そこの20ポイントの猫女」
「ただのネコじゃないけどね」
イリスは、すばやく猫のコートを脱ぎかえた。ひとつに束ねた長い銀髪が揺れている。
風にまじる花の芳香のような匂いが鼻孔をくすぐる。
意思の強そうな瞳は、ただ真っ直ぐに魔女を殺そうという殺気を秘めていた。
その凛とした佇まいに変わりなく、その震えるような美貌に陰りはない。
前に掌を突き出すと、氷の矢を魔女に向かって飛ばしていく。
その数は四つで、大きさはいずれも五百円玉程度の大きさだろうか。石材の壁に穴を開けるほどだから、その威力と速度は、先ほどの攻撃よりも早くて、当たったときのことを考えると背筋が凍る。
魔女は、ニヤつきながら、すばしっこく氷の矢を避けて走る。
「ほほう――氷の塊をぶつけるしか能がないのか。レベル500の魔女狩りめが」
魔女の手には、不釣り合いな凶器が鈍い輝きを放ちながら握られている。
刃渡り三十センチ近いナイフ、その刀はくの字に折れており、俗に内反りとされる刀剣の一種だ。先端の重みで斧のように、獲物を断ち切る武器のようだ。
その刃を振りかざし、魔女は先ほどまでと変わらない微笑みを浮かべている。
「魔女狩りは、死ね」
瞬時に魔女はイリスの脇をすり抜け、その刃が振り切られたのだろう、イリスの右肩から血が染み出出して、彼女は痛みに顔を歪める。止血しようと、片手を傷口にあてがいながら、もう片方の掌を突き出して、次の攻撃に備えている。
ケンは、一瞬の、しかも意識の外の攻防で、命が左右されている闘いに、脳を遅すぎる恐怖が駆け巡っていた。警鐘が鳴り響き、心臓が早鐘のように血液を送り出す。全身が心臓になったような鼓動の音を聞きながらも、ケンは体を支える腕の震えを止めようと、無理やり片腕で押さえつける。
「う――!?」
今度は、イリスへの、横合いからの突然の殴打。
腰あたりを打った威力に体が横滑りし、イリスは受け身も取れずに地面を無様に転がった。
痛みと衝撃、ぐるぐる回る視界の中で、とっさにイリスが上体を起こそうと顔を上げると、自分の腰には抱きつくように魔女の腕がしがみついていた。
「首元を裂いてやるよ、新米のかわいい魔女狩りさんよ」
イリスが、恐怖で顔を引き攣らせる。
「あんた、どっかで見たことあるよ。そうだ、確か、十年前に皆殺しにした、パリス家のお嬢ちゃんだったか?」
「まさか、お前が? 魔女ジーニスなの!」
「ふん。ジーニス様を呼び捨てにするな。お前ごときは、下っ端のあたしで十分だ」
イリスの蒼い目が、怒りでわなわなと燃え上がるが、魔女に押さえつけられて身動きできない。
「じゃあ、死ぬ前に、一つ教えて。武器は誰に納品するの?」
「ふん。なら、冥土の土産に教えてやるよ。
三日後の真夜中、シリナクの港で取引がある。そこで高く売りさばくのさ。わかったか? 」
「それで、その後は?」
「もう、おしまいだよ。死ね!」
「イリス―っ!」
ケンは生じる不快感に促されるように光を前へ。進もうとしていた先に、その匂いがクローゼットの中からだと特定できた。
「――ああ、わたしを見つけてくれてありがとう。あなたは無能じゃない。特別な存在だわ。さあ、ベビーちゃん、こっちに来なさいよ」
あの血なまぐさい匂いと、女の低い声。
鼻をつくような 低く冷淡で、どことなく楽しげな女の声がした気がして、クローゼットの扉が開いた。
身長の高い女性だ。ケンと同じぐらいの背丈に、年齢は二十台前半くらい。
顔立ちは目尻の垂れたおっとりした雰囲気の美人で、病的に白い肌が薄暗い蔵の中でもはっきりと目立つ。
黒い外套を羽織っているが、前は開けているのでその内側の肌にぴったり張り付いた同色の装束が目につく。細身ながらも出るとこの出たナイスバディだ。
そしてケンと同じく、この世界では珍しいとされる黒い髪の持ち主。背を越して腰まで届く長い髪を編むように束ねて、指先でその先端を弄んでいる。
どことなく妖艶な雰囲気の大人のお姉さんだ。
ケンにとって縁がない上に、経験値もかなり少ない稀有なキャラである。
端的に言えば、超ドギマギせざるを得ない。
「やばい、レベルゲージが1000超えてるぞ……」
精神的に優位をとられて、思わず腰が引けてしまうケン。
彼女はそれを気にした様子もなく小首を傾け、
「部外者がいる気がするのだけれど。ベビーの後に隠れてないで出てきなよ。そこの20ポイントの猫女」
「ただのネコじゃないけどね」
イリスは、すばやく猫のコートを脱ぎかえた。ひとつに束ねた長い銀髪が揺れている。
風にまじる花の芳香のような匂いが鼻孔をくすぐる。
意思の強そうな瞳は、ただ真っ直ぐに魔女を殺そうという殺気を秘めていた。
その凛とした佇まいに変わりなく、その震えるような美貌に陰りはない。
前に掌を突き出すと、氷の矢を魔女に向かって飛ばしていく。
その数は四つで、大きさはいずれも五百円玉程度の大きさだろうか。石材の壁に穴を開けるほどだから、その威力と速度は、先ほどの攻撃よりも早くて、当たったときのことを考えると背筋が凍る。
魔女は、ニヤつきながら、すばしっこく氷の矢を避けて走る。
「ほほう――氷の塊をぶつけるしか能がないのか。レベル500の魔女狩りめが」
魔女の手には、不釣り合いな凶器が鈍い輝きを放ちながら握られている。
刃渡り三十センチ近いナイフ、その刀はくの字に折れており、俗に内反りとされる刀剣の一種だ。先端の重みで斧のように、獲物を断ち切る武器のようだ。
その刃を振りかざし、魔女は先ほどまでと変わらない微笑みを浮かべている。
「魔女狩りは、死ね」
瞬時に魔女はイリスの脇をすり抜け、その刃が振り切られたのだろう、イリスの右肩から血が染み出出して、彼女は痛みに顔を歪める。止血しようと、片手を傷口にあてがいながら、もう片方の掌を突き出して、次の攻撃に備えている。
ケンは、一瞬の、しかも意識の外の攻防で、命が左右されている闘いに、脳を遅すぎる恐怖が駆け巡っていた。警鐘が鳴り響き、心臓が早鐘のように血液を送り出す。全身が心臓になったような鼓動の音を聞きながらも、ケンは体を支える腕の震えを止めようと、無理やり片腕で押さえつける。
「う――!?」
今度は、イリスへの、横合いからの突然の殴打。
腰あたりを打った威力に体が横滑りし、イリスは受け身も取れずに地面を無様に転がった。
痛みと衝撃、ぐるぐる回る視界の中で、とっさにイリスが上体を起こそうと顔を上げると、自分の腰には抱きつくように魔女の腕がしがみついていた。
「首元を裂いてやるよ、新米のかわいい魔女狩りさんよ」
イリスが、恐怖で顔を引き攣らせる。
「あんた、どっかで見たことあるよ。そうだ、確か、十年前に皆殺しにした、パリス家のお嬢ちゃんだったか?」
「まさか、お前が? 魔女ジーニスなの!」
「ふん。ジーニス様を呼び捨てにするな。お前ごときは、下っ端のあたしで十分だ」
イリスの蒼い目が、怒りでわなわなと燃え上がるが、魔女に押さえつけられて身動きできない。
「じゃあ、死ぬ前に、一つ教えて。武器は誰に納品するの?」
「ふん。なら、冥土の土産に教えてやるよ。
三日後の真夜中、シリナクの港で取引がある。そこで高く売りさばくのさ。わかったか? 」
「それで、その後は?」
「もう、おしまいだよ。死ね!」
「イリス―っ!」
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