異世界に落ちたオレは、キミの最強の武器になる

朝日みらい

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異世界

9 イリス

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「でも、きみは魔女狩りなんだろ。魔女狩りさんと一緒に歩いてたら、俺を捕まえに来る魔女は寄り付くのか」
「確かにね。良いこというわ」

 路地裏を並んで歩きながら、少女は改めて周囲を見回した。そこかしこに手書きの象形文字のようなものが存在しているだけで、人気はない。

「よし、誰も見てないっと」

 少女は羽織っていたコートを裏返すと、裏には獣の毛がいっぱい生えている。そのまま、おもむろにひと回転すると、なんと毛並みは灰色で耳は垂れ、スバルの常識で言うならばアメリカンショートヘアという種類の、人間に等身大の猫人間がいた。
 鼻の色がピンク色で、妙に尻尾が長いのを除けばの話だが。

「ほら、行くわよ」

 そう言ってはにかむような表情で、等身大のサイズの直立する猫がいる。

「――化け猫かよ!」
「ご名答。ほら、わたしのステータス、どれくらいになってるか、確認して」

「あれ、20しかねえじゃん。500からすげえ下がった」

「これでわたしは、ただの巨大な猫族の女ってところ。それでいつでも、魔女はやってくるでしょ?」

 尻尾を振りながら、少女は先をスタスタ歩く。妙にセクシーで、ついついガン見してしまうケン。

「魔女が潜んでいるなら、この先の不法移民が多いスラムか貧民街かな……」
 少女は、二本ほど離れた通りの、スラム街へ繋がる細い路地を進む。

 湿った空気とすえた臭いが漂ってきていて、ケンは思わず顔をしかめる。

「空気と雰囲気の匂いも変わると、たぶん住んでる人間の性格も悪いんじゃないか」
「ふうん。あなた、妙に鼻が利くみたいね。どう? 魔女の匂いはする?」

「ごめん。わかんないよ」

 場所は先ほどの路地裏からも、その路地と繋がっていた大通りからも移動して、商店などの喧騒から遠い貧民街へと変わっている。

「そういえば、まだ名前も聞いてないね。自己紹介とかしてないんじゃないかな」

 ケンが話を切り出すが、少女は気にも止めずにスタスタ前を歩いている。

「そういや、そうだな。おれの名前は今田・ケン! 右も左もわからない上に無一文! ヨロシクな!」

「ケン。このあたりだとまず聞かない名前よね。そういえば髪と瞳の色も真っ黒だし、服装もずいぶんと個性あるけど……どこから?」

「東のちいさい国のジャパンだ!」

「ここは大陸図で見て、一番西にあるアリストス王国だから……真逆だね」

「そうだね」

「自分のいる場所もわかってなくて、無一文で、戦闘能力0……なんか色んな角度から、ケンのこれからがちょっと心配」

「心配してくれてるのか?」

 慌てふためくケンに対して、少女は首だけ向けて、そわそわ落ち着かない目を向ける。
 素直じゃないわりに、だいぶ世話焼きっぽさが端々からにじみ出る。
 あまりに無防備なおれの様子に気が気でないのだろう。

「……この先の路地からは今まで以上に警戒して。暗くなるからよからぬことを考える連中もいるだろうし、髪の毛や毛皮を剥いで商売したり、違法な武器を横流ししたりする、闇商人たちが住んでるところだから」

 少女はちらりと視線だけ向けて、また、顔を前に戻す。
 流し目すら色っぽくて気後れしながら、背中にケンは問いかけた。

「けっきょく、君の名前は聞いてないなと思ったんだけどな」

「何で? 知って意味あること?」

「そうかもしれないけどさ。でも、魔女狩りさんなんて、その、言いづらいっつうか。やっぱ、ちゃんと名前で呼んだ方が気持ちいいっつうか。やべえ、また、舌が回らねえ」

 茶目っ気まじりの問いかけに、少女はしばし、沈黙する。
 その態度に「失敗した」と内心で焦る。さっきの場面で喋らなかったということは、名前は言いたくないと暗に言っていたのかもしれない。
 人の心も女心も読めないコミュニケーション下手、それがまだ遺憾なく発揮されたか。

「――イリストリス パリスよ」
「え? イリストリ……」

 ふいの少女の呟きに、葛藤にまみれていたケンのろれつが回らない。

 少女は振り返ることもなく、そんなケンに無感情にもう一度だけ、
「イリスと呼んでいいよ」
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