6 / 20
異世界
6 餌
しおりを挟む
話をはぐらかされているとでも思ったのか、少女の口調には苛立ちがまじる。
その態度に焦りを覚えたのか、狼男たちは慌てた素振りで弁明を始める。
「ちょ、ま、待ってくれ! 俺たちはただ、弱そうなベビーを見つけて、つるんでいただけで。遊んで仲良くなりたくてな」
「魔女を見かけたか、聞いてんのよ!」
こちらに掌を向けた少女――その掌から、光の塊が立ち尽くす男たち目掛けて放たれていた。
硬球が肉を打つのに似た音が三つ鳴り、狼男たちが苦鳴を上げて吹っ飛ばされる。
男たちに命中し、俺の傍らに甲高い音を立てて落ちたのは氷の塊だ。拳大の大きさの氷の塊は、その役目を果たした途端に霧状に舞って、彼女の掌から消えた。
「――魔法」
とっさに口からこぼれた。今の氷は少女の掌から生まれて打ち出されていた。
実際には無骨な光の玉が急に生じて、急に消える。恐怖しかない。
「やって……くれやがったな」
そのリアルな一撃を受けた、狼どものダメージは甚大だ。
凍った片方の足を引きずりながら、狼男が二人立ち上がる。ひとりはあたりどころが悪かったのか、顔面が氷ついて固まっているが、残りの二人は流血こそしているが健在。ナイフ男とは別の男も、その手には錆びの浮いた鉈のような獲物を握って臨戦態勢だ。
「こうなりゃ相手が魔法使いだろうがなんだろうが、知ったことかよ。二人で囲んでぶっ殺してやる……二対一で、勝てっと思ってんのか、ああ!」
片手で曲がった鼻を押さえながら、ナイフの男が怒声を張り上げる。
その罵声に対して少女は怯んだ様子もなく、再び、掌を二人に向ける。
「おかげで、わたしの経験値は140レベルくらいは上昇したでしょうね。あなた二人はもう10ポイント。倒すのは楽勝だけど。すぐ決断なさい。魔女はどこ行ったの? さもないと、今度は火の玉で丸焼きになるわ」
「しらねえって、言ってんだろうが」
少女の詰問に口惜しげに舌を打ち、狼たちは、急に俺の襟首をつまみあげると、首根っこにナイフをかざす。
「近づくと、ベビーが死ぬぞ」
「くっ」
少女は、悔しそうに唇をかんで、突き上げた拳をわずかにしたに向ける。
「ふん。覚えてろよ、魔女狩りさんよ」
狼たちはそれまででもっとも顔色を青くして、今度こそ無言で雑踏の方へと逃げていく。
それきり彼らの姿が見えなくなると、この路地に残るのは少女と俺だけになった。
少女は、ケンのもとに駈け寄る。
「動かないで」
体の痛みも忘れて体を起こし、とにかくお礼の言葉をしなきゃな。
そんなことを考えていたケンに対し、少女は情を感じさせない冷たい声で言った。
「いい餌になりそう」
彼女の蒼い瞳には、冷徹さがある。ケンのその存在が、保護する対象であるとは欠片も思っていない、獲物を狙っている、ハンターの目だ。
その態度に焦りを覚えたのか、狼男たちは慌てた素振りで弁明を始める。
「ちょ、ま、待ってくれ! 俺たちはただ、弱そうなベビーを見つけて、つるんでいただけで。遊んで仲良くなりたくてな」
「魔女を見かけたか、聞いてんのよ!」
こちらに掌を向けた少女――その掌から、光の塊が立ち尽くす男たち目掛けて放たれていた。
硬球が肉を打つのに似た音が三つ鳴り、狼男たちが苦鳴を上げて吹っ飛ばされる。
男たちに命中し、俺の傍らに甲高い音を立てて落ちたのは氷の塊だ。拳大の大きさの氷の塊は、その役目を果たした途端に霧状に舞って、彼女の掌から消えた。
「――魔法」
とっさに口からこぼれた。今の氷は少女の掌から生まれて打ち出されていた。
実際には無骨な光の玉が急に生じて、急に消える。恐怖しかない。
「やって……くれやがったな」
そのリアルな一撃を受けた、狼どものダメージは甚大だ。
凍った片方の足を引きずりながら、狼男が二人立ち上がる。ひとりはあたりどころが悪かったのか、顔面が氷ついて固まっているが、残りの二人は流血こそしているが健在。ナイフ男とは別の男も、その手には錆びの浮いた鉈のような獲物を握って臨戦態勢だ。
「こうなりゃ相手が魔法使いだろうがなんだろうが、知ったことかよ。二人で囲んでぶっ殺してやる……二対一で、勝てっと思ってんのか、ああ!」
片手で曲がった鼻を押さえながら、ナイフの男が怒声を張り上げる。
その罵声に対して少女は怯んだ様子もなく、再び、掌を二人に向ける。
「おかげで、わたしの経験値は140レベルくらいは上昇したでしょうね。あなた二人はもう10ポイント。倒すのは楽勝だけど。すぐ決断なさい。魔女はどこ行ったの? さもないと、今度は火の玉で丸焼きになるわ」
「しらねえって、言ってんだろうが」
少女の詰問に口惜しげに舌を打ち、狼たちは、急に俺の襟首をつまみあげると、首根っこにナイフをかざす。
「近づくと、ベビーが死ぬぞ」
「くっ」
少女は、悔しそうに唇をかんで、突き上げた拳をわずかにしたに向ける。
「ふん。覚えてろよ、魔女狩りさんよ」
狼たちはそれまででもっとも顔色を青くして、今度こそ無言で雑踏の方へと逃げていく。
それきり彼らの姿が見えなくなると、この路地に残るのは少女と俺だけになった。
少女は、ケンのもとに駈け寄る。
「動かないで」
体の痛みも忘れて体を起こし、とにかくお礼の言葉をしなきゃな。
そんなことを考えていたケンに対し、少女は情を感じさせない冷たい声で言った。
「いい餌になりそう」
彼女の蒼い瞳には、冷徹さがある。ケンのその存在が、保護する対象であるとは欠片も思っていない、獲物を狙っている、ハンターの目だ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる