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「わかりました。すぐに参ります」

 しかし、メイドは去る前に、さらに言葉を続けた。

「お姉様方は立派な王族の血筋の公爵家に嫁がれたというのに、アネット様は…」

 その言葉には明らかな嫌味が含まれており、アネットは思わず言葉を失った。

 しかし、彼女は深呼吸をして、落ち着いて答えた。

「すぐ行くわ」

 メイドは何も言わずに部屋を出て行った。

 アネットは一人残され、心の中で自分自身に言い聞かせた。

「私は私だもの。誰もわたしの人生を代われないから」

 彼女は両親が待つ居間へと向かった。

 広間には両親とルーデン・ホールディングスもいたのでアネットは驚いたが、顔には見せないようにした。

「アネット、お帰りなさい。あなたが戻ってくるのを心待ちにしていたわ」

「アネット、まあ、そこに掛けなさい」

 アネットは両親に微笑みを返して、向かいの椅子に腰掛けた。

 スプリング家の居間は、緊張で静まり返っていた。

 ルーデンは自信に満ちた態度で、アネットの両親の前に立ち、彼の意向をはっきりと伝えた。

「僕はアネットとの結婚を強く望んでいます。僕たちの結婚は両家にとっても、そして社会的にも利益となるでしょう」

 アネットの父親は、なによりも家の名誉を考えた。

「ルーデン、君の申し出を受けることに決めた。娘の未来を考えれば、これが最善だな」

 母親も同意し、アネットに向かって言った。

「アネット、これは全てあなたの幸せのためなのよ」

 アネットは両親の決定に心を痛めつつも、自分の意志をはっきりと伝えることにした。

「でも、私はルーデンとの結婚を望んでいません。私の気持ちも、私の人生も、私が決めるべきですわ」

 ルーデンはアネットの反対を予想していたようで、彼女に説得しようとする。

「アネット、僕たちの結婚はただの感情以上のものだ。これは君の家族、そして君自身の未来にとっても最良の選択だと思うよ」

「ですが…!」

「アネット、黙りなさい。これは家同士の決定だ。それが嫌なら、俗世を捨てて修道女にでもなるがいいだろう!」

 スプリング伯爵は、娘の意見など求めていなかった。

「分かりました。失礼します!」

 アネットは自分の心に従う決意を固めていた。

 彼女は部屋を出て、その足で修道院へと向かった。



 修道院への道は、静けさと緑に囲まれた小道だった。

 アネットはその道を一歩一歩、決意を胸に進んでいった。
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