【完結】公爵令嬢は聖女になって身を引いたのに、殿下の愛は止まらない。

朝日みらい

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 春のエルドラン帝国宮殿の庭園は、色とりどりの花々が風にそよぎ、陽光がまばゆく照りつける楽園そのものだった。

 そこには、14歳のセラフィー・アマンテール公爵家のご令嬢が、愛らしい笑顔で歩いていた。彼女は宰相の娘として、宮廷の中で自由に出入りできた。

 彼女の髪は金色の麦わらに似て、瞳は青い空のように澄んでいる。

 ちょうど同じ頃である。

 宮殿の中では16歳の皇太子アーマンド・エルドランが成人を迎え、『皇太子就任の儀』という、厳かな式典の準備に忙しくしていた。

 彼は国の未来を背負う若き皇子であり、髪は黒い翼のようになびき、瞳は深い森のように神秘的な深い緑色である。

「まあ、可愛い!」

 セラフィーは花壇の前で屈んで花びらを手にして、指先でそっと撫でた。そこに、アーマンドはそっと近づいた。

 アーマンドは声をかけるのをためらった。あまりにも可愛らしい令嬢だったから。

 一方、セラフィーは彼の存在に気づかないまま、無邪気に花々に話しかけていた。

「きみは宰相のお嬢さん、だよね?」

 アーマンドは、勇気を出して尋ねてみた。

 セラフィーは驚いて振り返り、彼の姿に目を見張った。アーマンドは想像を超えるほど美しく、威厳に満ちていた。

「はい、そうです。わたくし、アマンテール公爵家のセラフィーと申します。皇太子殿下、お会いできて光栄です」

 セラフィーは瞳を輝かせて、スカートの端を持ち上げると、礼儀正しく頭を下げた。たちまち心は高鳴り、頬は紅潮してしまう。

「きみが、庭園の花々に囲まれる姿が美しくて、つい声をかけてしまったんだ。君のお父上は宰相として、国に多くの賢明な助言をしていると聞いているよ」

 アーマンドは優雅な笑顔で言いながら、花の一つを手に取り、それをセラフィーに手渡した。それは彼女の髪色と同じ金色の花だった。

「ありがとうこざいます!」

 セラフィーは嬉しそうに鼻先に花弁を寄せて、頬を紅色に染めた。

 ついでに、アーマンドは彼女の髪に触れたいと思ったが、さすがにそれはできなかった。

「私はここで式典の準備に追われているけれど、君のような素敵な方と出会えて嬉しい。また会えるのを楽しみにしているよ」

 セラフィーも照れくさそうに微笑み返し、手にした花を優しく受け取った。彼の手に触れたいと思ったが、それは恥ずかしくてできなかった。

「ありがとうございます、皇太子殿下。私もまたお会いすることを心待ちにしています」

 翌日から、ふたりは庭園での密かな出会いを楽しんだ。お互いの世界を知り合い、その中で少しずつお互いのことを理解していったのである。
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