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第1章 異動とミステリーサークル
第3話
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休暇なんて取れる訳ないじゃない。
私は販売から営業部に来てから、年休なんて取ったことなどない。
ずっと働きずめだ。
ここの部署はみんなそうだ。
帰宅は十二時過ぎ。翌朝五時には起床して出社する。
時々徹夜だってある。
そうでもしないと仕事は終わらない。
終わらなければ、中央に立たされて部長の指導を受ける。
それを分かっていながら、高田部長は綺麗事を言っている。
何か問題が起きても、これだけ自分が部下に指導していたんだと言い訳ができるから。
つまり部下が責任を取るシステム。
今日も、いい加減な言葉が 淀みなく高田部長の口からこぼれ落ちてくる。
「いいですか。わが社は、法令を遵守しています。
過労死などあっては一番困りますから。自己管理は徹底してくださいね。先月の新宿H デパートの 斉木 美帆店長が お亡くなりになったのはご承知の通りです。もちろん 我が社と死亡との関連性はありません。パワハラの指摘も上がってはおりません。ですが皆さんも、くれぐれも言動には注意するように」
未知子は周囲の鋭利な視線を感じた。
Hデパートの 営業担当をしていたのは未知子であった。
まるで未知子の言動でこうなったと、名指しで宣伝しているように思える。
高田部長は流し目で全員を見渡した。
「それでは引き続き、担当店舗に労務管理の指導の徹底をお願いしますね」
そしてあてつけのように、未知子を見たのである。
朝礼が終わり、未知子はその場から逃げるように、肩にバッグ、両手にダンボールを抱えてエレベーターに乗り込んだ。
カゴに誰もいないことにほっとしたのも、つかの間。突然、高田部長が割り込んできた。
「文書課の入っているビルは知ってる?」
「はい。だいぶ古い雑居ビルらしいですね。人事課の方で伺いました」
「ところで美帆の葬式には出てないわよね?」
「ええ。言われた通りに」
「ならいいんだけど」
安堵したように高田部長は言った。
「美帆は、お店のみんなに慕われていたでしょう。
どうもそこのお店の子達があなたを逆恨みしてるみたい」
「逆恨み?」
私は販売から営業部に来てから、年休なんて取ったことなどない。
ずっと働きずめだ。
ここの部署はみんなそうだ。
帰宅は十二時過ぎ。翌朝五時には起床して出社する。
時々徹夜だってある。
そうでもしないと仕事は終わらない。
終わらなければ、中央に立たされて部長の指導を受ける。
それを分かっていながら、高田部長は綺麗事を言っている。
何か問題が起きても、これだけ自分が部下に指導していたんだと言い訳ができるから。
つまり部下が責任を取るシステム。
今日も、いい加減な言葉が 淀みなく高田部長の口からこぼれ落ちてくる。
「いいですか。わが社は、法令を遵守しています。
過労死などあっては一番困りますから。自己管理は徹底してくださいね。先月の新宿H デパートの 斉木 美帆店長が お亡くなりになったのはご承知の通りです。もちろん 我が社と死亡との関連性はありません。パワハラの指摘も上がってはおりません。ですが皆さんも、くれぐれも言動には注意するように」
未知子は周囲の鋭利な視線を感じた。
Hデパートの 営業担当をしていたのは未知子であった。
まるで未知子の言動でこうなったと、名指しで宣伝しているように思える。
高田部長は流し目で全員を見渡した。
「それでは引き続き、担当店舗に労務管理の指導の徹底をお願いしますね」
そしてあてつけのように、未知子を見たのである。
朝礼が終わり、未知子はその場から逃げるように、肩にバッグ、両手にダンボールを抱えてエレベーターに乗り込んだ。
カゴに誰もいないことにほっとしたのも、つかの間。突然、高田部長が割り込んできた。
「文書課の入っているビルは知ってる?」
「はい。だいぶ古い雑居ビルらしいですね。人事課の方で伺いました」
「ところで美帆の葬式には出てないわよね?」
「ええ。言われた通りに」
「ならいいんだけど」
安堵したように高田部長は言った。
「美帆は、お店のみんなに慕われていたでしょう。
どうもそこのお店の子達があなたを逆恨みしてるみたい」
「逆恨み?」
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