【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい

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 その後、セーリーヌはアドニス侯爵とともに王都を後にした。

 行き先は、王都から馬車で3日はかかる辺境である。

 そこで、彼女は彼と共に新しい生活を始めることになったのだ。

 そこは屈強な城で、一国の領主のように大勢の兵士を抱えたものであった。

 そして、その兵士たちの訓練と防衛を担当するのがアドニス侯爵の役割である。

 セーリーヌはそこで、彼と新しい生活を始めた。

 当初は不安もあったが、少しずつ慣れてきた。今では隣国の領主との夜会や、領民たちとの触れ合いの催しが立て続けに続き、毎日が充実しているように思える。

 だが、アドニス侯爵は統治のための執務で多忙になり、二人の時間は少なかった。セーリーヌも、事情はよく分かっている。それでも心のどこかで寂しさを感じていた……。



 それから数日が経った頃──。

 セーリーヌは空いた時間に、城の中を歩いていた。

 特に目的があっての行動ではなかったのだが、自然と足がこの廊下へ向いていたのである。

 その理由については彼女自身よくわからなかった……。ただ、何か予感めいたものがあったのかもしれない。

 やがて彼女はひとつの扉の前へと辿り着いた。

 そこはアドニス侯爵の個室である。

 セーリーヌは扉に耳を当ててみた。

 中からは物音が聞こえることはなかったが、人の気配を感じることができた。

「アドニス様……?」

 そっと呼びかけると、扉の向こうから返事があった。

「入ってくれ」

 その言葉に従い、中に入ると、そこにはやはりアドニス侯爵の姿があった。

 彼は執務机に向かっており、手にはペンを持っていた。どうやら仕事中だったらしい。

 セーリーヌが部屋に入ると、彼は羽根ペンを置いてこちらに向き直った。

「どうした? 何かあったのか?」

 優しい口調で問いかけてくるアドニス侯爵に対して、セーリーヌは少し言い淀んでしまった。

 何となく照れくさかったのである。だが、意を決して口を開くと言った。

「いいえ……ただ、お会いしたかっただけ……。仕事の邪魔でしたわね。ごめんなさい」

 その言葉を聞いた瞬間、彼の表情がパッと明るくなった気がした。

「まさか!」

 そして、立ち上がるとこちらに近づいてくる。

 その仕草を見ているだけで胸が高鳴るのを感じた……。
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