【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい

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 胸が高鳴る──呼吸が苦しい──

「あ……あの……」

 セーリーヌはどうにか言葉を絞り出した。

 アドニス侯爵はこちらをじっと見つめたまま何も言わない。


(どうしてなにも言ってくださらないの……?)


 彼が何も言ってくれないと、自分の思い上がりだったのではないかと不安になる。

 すると、不意に耳元に彼の唇が寄せられた。

 そして、囁かれる──愛の言葉を──。

「好きだ」

 その瞬間、ゾクゾクとした感覚が背筋を駆け抜けた。

 腰が抜けそうになるのを必死に堪える。

 身体が熱くなるのを感じた。

(ああ……わたくしはこの方をお慕いしているのだわ……)

 セーリーヌは無意識のうちに彼の背中に腕を回していた。

 すると、彼は優しく抱きしめてくれる。

 その温かさに涙が溢れそうになった。

(もう離れたくない……)

 セーリーヌはアドニス侯爵の胸に顔を埋めた。

 心臓の音がうるさいくらいに高鳴っているのがわかる。

 彼もまた同じようにドキドキしてくれているのだろうか? 

 そんなことを考えていると、不意に身体を離された。

 彼の顔を見上げると、熱を帯びたような瞳でこちらを見つめているのがわかった。

 ドキリとする。次の瞬間──アドニス侯爵の唇が自分の唇に重ねられていた。

──ああ……なんて温かいのかしら……

 セーリーヌは彼の背中に回した手に力を込めた。

 それに応えるように、彼もまた強く抱きしめてくれる。

(このまま時間が止まればいい……)

 そう思いながら、セーリーヌは静かに目を閉じたのだった──
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