【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい

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 セーリーヌが呟くと、アドニス侯爵はゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。

 そして、その大きな手で優しく頭を撫でてくれる。

──駄目だわ。ああ、やはり安心しちゃう……。

 そう思いながらも、セーリーヌは自分が感じた疑問を口にしていた。

「アドニス様はなぜわたくしにやさしくしてくださるの?」

「あなたが私の代わりに殿下を守ったから。結婚前の御令嬢が、この傷でどれだけ辛い思いをなさるか想像に難くない」

「……」

 たしかに傷は痛い。傷も残る。代償は大きい。

 だが、アドニス侯爵がこうして優しくしてくれることで、痛みも和らいでいく気がするのだ。

 セーリーヌがなにも言わずにいると、彼はそっと手を放した。

 そして、そのまま背を向ける。それがなんだか名残惜しくて、思わず彼の軍服の裾を掴んでいた。

 すると、彼は驚いたようにこちらを振り返った。

「どうした?」

「あ……!」

 セーリーヌはハッとした。

 そして、慌てて手を離すと顔を伏せた。

 顔が真っ赤になっているのが自分でもわかる。

──なぜこんなことをしてしまったのかしら? 

 自分でもよくわからない。

 でも、もう少しだけ彼と一緒にいたいと思った。

 それがなぜだかはわからないが……。


 すると、アドニス侯爵は再びこちらに向き直った。

 そして、再び大きな手が優しく髪に触れてくる。

 その温かさに思わず目を閉じた瞬間──唇に何かが触れたような気がした。

 驚いて目を見開くと、目の前にアドニス侯爵の顔があった。

 そして、自分の唇には彼の手が触れている。

──キス……? そう思った瞬間、セーリーヌの心臓が飛び跳ねた。

 鼓動が早鐘のように鳴っているのがわかる。

 顔が熱い。きっと耳まで赤くなっているだろう。
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